2014年11月22日土曜日

【みみず・ぶっくす03】蔦の手帖 小津夜景

【みみず・ぶっくす03】蔦の手帖 小津夜景

小津夜景
【みみず・ぶっくす 03】蔦の手帖

石ころと暮らして蔦の手帖かな
なんとなう忘れがたみぞ額に露
黄落の蕩いでこゑのあかるみぬ
戸は萩にわれは仮寝に酔うてをり
夜の桃と見れば乙女のされかうべ
指を折り数へよ噓に棲む鳥を
火を恋はばひらく薬香わがものに
ゆく秋の虹を義足に呉れないか
その日より霧のグラスとなりにけり
いさよひの紙にながるるのは雲か

2014年11月21日金曜日

●金曜日の川柳〔三浦蒼鬼〕樋口由紀子



樋口由紀子






梟になれるポイント貯めている

三浦蒼鬼 (みうら・そうき) 1956~

ポイント社会である。財布はポイント券のカードが溢れて、ぱんぱんに膨れ上がっている。ガソリンを買ってもパンを買っても、ネットで買い物をしても、なんでもかんでもポイントが付く世の中である。ポイントが貯まって、値引きしてもらったり、モノと交換してもらうと、得したような気になる。確かに得をしているのだが、ポイントに振り回されているようにも感じる。

「梟」は比喩としても読めるが、私は「梟」そのものとして読んだ。梟は止まり木でじっと見ていて、不思議な雰囲気があり、得体のしれなさがある。変身願望の一つとしてはありかもしれない。でも、ポイントを貯めてまで、しいてなりたいだろうか。現実的かもしれないが、私は夜出て、ノネズミなんか捕りたくない。がんばってポイントを貯めても梟だったら、パスして、もういいかなと思う。ポイント社会を揶揄しているとも読める。「おかじょうき」(2014年11月号)収録。

2014年11月19日水曜日

●水曜日の一句〔甲斐一敏〕関悦史



関悦史








うみみぞれれくいえむ聴く海鼠かな  甲斐一敏

「うみ」「みぞれ」「れくいえむ」と、しりとりからレクイエムが出てきて、それを海鼠が聴く図に転じる。

この海鼠はどこにいると取るべきか。

海から上げられ、室内で調理される寸前となると音楽が聞こえていても不自然ではなくなるが、レクイエムがやや意味でつきすぎとなる。一方、海の中で聴いていると取るとモチーフ全体があまり締まらない想像画となる。

別な解釈として、語り手(人間)が自分を海鼠に見立てているという取り方もあるが、これはこれでみぞれる海の存在感が消えてしまう。

この句はもともと「うみ」と「海鼠」が近く、「みぞれ」と「海鼠」が季重なり、「みぞれ」と「れくいえむ」も情調的に遠くないので、しりとりのわりには飛躍がなく、荘重なレクイエムを聴く海鼠というイメージの滑稽味に句の価値のかなりの部分がかかっている(言い換えれば、一句が意味性中心に構成されている)ので、なるべく即物性を回復させたい。やはり海鼠は室内にいるととるべきか。

句集全体としては、作者が先に興じ過ぎで文体に締まりがない句や、定型感覚の裏打ちのない字余り・字足らずの句が多かったのだが、この句はぴったり定型に収まり、「かな」止めで「海鼠」が打ち出されている分、「れくいえむ聴く」の滑稽が浮かず、みぞれる海と海鼠との大小(または遠近)の対比による実体感のなかに余裕を持って引き留められた句となり得ている。

せっかくしりとりになっているのだから「うみみぞれ」を単なる状況設定と読むのではなく、一度切り離し、「うみ」の波音、「みぞれ」の降る音、「れくいえむ」の三つを同時に海鼠が聴いていると取った方が、海鼠に集中する広大なもの複雑なものの度合いが増すのかもしれず、そうなればもはや海鼠がどこにいるかなど気にもならなくなるが、句中の「海鼠」はもっとちんまりとした風情に見えるし、そちらの味はそちらの味で捨てがたい。


句集『忘憂目録』(2014.11 ふらんす堂)所収。

2014年11月18日火曜日

【柳誌拝読】『Senryu So』第6号/終刊号(2014年秋)

【柳誌拝読】
『Senryu So』第6号/終刊号(2014年秋)

西原天気


同人3氏(石川街子、妹尾凛、八上桐子)の作品に、終刊号は柳本々々氏をゲストに迎えている。

A6判(105×148mm)、てのひらサイズ。


広げるとA3判。表裏ともにカラー。



返送されてき来た手紙から雪が舞う  石川街子

葬送のからだを包むシャボン玉  妹尾凛

一本のみじかい紐になる真昼  八上桐子

詩的成分の濃い句においては、現代川柳と俳句は、かなり近い感じになるという印象。

ゲスト作品からいくつか。

句読点煮込んだよるにすこし浮く  柳本々々

信号でめがねをはずすぬるい虹  同

ねえ、夢で、醤油借りたの俺ですか?  同

〈語のはたらき〉という点で刺激的な句群。

さらに八上桐子「からだから」の身体モチーフに惹かれた。湿るでも乾くでもない、不思議な質感。

ねむたげにオカリナの口欠けている  八上桐子

くちびるへ手鏡の海かたむける  同

瞳孔にひしめきあっている檸檬  同



柳本々々:顔パンチされる機関車トーマス 柳誌『Senryu So』から湊圭史の一句

2014年11月17日月曜日

●月曜日の一句〔森泉理文〕相子智恵



相子智恵







ストーブを部分解禁する朝  森泉理文

句集『春風』(2014.11 邑書林)より

天気予報で「明日の朝は今年一番の冷え込みになるでしょう」というセリフが聞こえはじめる頃、掲句はそんな初冬の句だろう。ことに冷え込みの強いある朝。でもこれからはもっと寒くなるのだから、その寒さに備えるためにも、ここは暖房を使わずにしのぐべきか、それとも使ってしまおうか……暖房を使い始める日に迷うのは、多くの人が経験のあるところだ。

そこで作者が取ったのはストーブの〈部分解禁〉である。一部屋だけ使おう、といったところだろうか。ストーブという些細なものに〈解禁〉という言葉を使ったり、朝をあしたと読ませるようなどこか大げさな物言いに俳味があり、くすりと笑わせられる。とうとう暖房を解禁するぞという、誰にでもない自分への宣言は滑稽でありながら、多くの人にとって「あるある感」があるのである。