2018年4月21日土曜日

【裏・真説温泉あんま芸者】句集の読み方 その8・あとがき 西原天気

【裏・真説温泉あんま芸者】
句集の読み方 その8・あとがき

西原天気



シリーズ的に掲載していた「句集の読み方」は「その7・本文」まで行って、そのままになっていたが、「あとがき」がないことには、どうにも収まりが悪い。だから、書いておくね(たいして内容はないけれど)。

「あとがき」に含まれる内容をあげていくと、

解題的なもの:この句集は私の第×句集であって、××年から××年の句作を収めたうんぬん。句集タイトルの謂れ。その他。

作者の来歴:奥付上部等に記されるプロフィールから漏れるもの。第一句集なら俳句を始めたきっかけ等。

謝辞:結社主宰、編集者等へのお礼のことば。

ほかにもいろいろ。

本文(句)が読まれる以前には与えたくない、かつ伝えておきたい情報がメインになるのだろう。「必要」が優先されるので、「面白い」あとがきは、経験上少ない。ユニークなあとがきも、あまり目にしない。そんななか、野口裕『のほほんと』(2017年12月10日/図書出版 まろうど社)あとがきの、その最後。
誰かに献辞を呈す、あるいは誰かに謝辞を捧げるような殊勝な心持ちは、とうになくしているので省略する。関係各位には諒とせられたい。
こういう突っ慳貪も、作者像・作風とマッチするなら、アリだな、と思いましたよ。


【句集の読み方・バックナンバー】
その1・付箋
その2・
その2・帯〔続〕
その3・署名
その4・序文
その5・書名
その6・さわる
その7・本文

2018年4月20日金曜日

●金曜日の川柳〔寺尾俊平〕樋口由紀子



樋口由紀子






マルクスは私か妻か金がたまらぬ

寺尾俊平 (てらお・しゅんぺい) 1925~1999

美容院で隣の会話の噛みあわなさに笑いをこらえて聞いていた。70歳前のお客さんと30歳前の美容師さんの有名人ネタなのだが、お客さんは当然知っていると思って話す、美容師さんはお客さんに合わせようと知っているふりをして答える。でも、共有されている情報がないから、全く噛み合わない。

「マルクス」だってそうなるだろう。カール・マルクス(1818~1883)はドイツ出身の思想家、経済学者で、世界の社会主義運動に多大な影響を与えた。が、今、名前が出ることはあまりない。掲句の発表された当時は「マルクス」はある意味で流行りの人であった。掲句はそれをいち早く取り入れている。マルクスは私有財産を否定していた。だから、その共有されている情報を俗っぽく引っ掛けて、つまりはお金が貯まらないことの言い訳をしている。「川柳研究」(226号/昭和43年刊)収録。

2018年4月19日木曜日

【俳誌拝読】『奎』第5号(2018年3月12日)2/2

【俳誌拝読】
『奎』第5号(2018年3月12日)2/2

≫承前

ひきつづき、同人諸氏作品より1句ずつ。

浅蜊静かCMに入るワイドショー  小春空

節分の鬼も一緒に笑ひたる  柴田健

春塵の駱駝の瘤の尖りけり  清水憲一

体温は答へを持ちて朧月  下楠絵里

薇の龍になりしを待ちゐたる  田中目八

春灯に吉右衛門の銘うしろ闇  中井草雨

寒鯉やベルトに伸びた穴がある  なつはづき

幾度も踏まれて音のせぬ落葉  原英

帰る鴨イヤフォンめいて離ればなれ  春野温

傷一つスーツケースに春の風  東影鈴子

春の泥片側だけが乾きだす  平山哲行

蜂蜜の底にたまつてゐて四月  細村星一郎

ピラミッドを文鎮にして春の海  松本青山

眼球は魚のにおい寝正月  都めぐみ

ふらここの鉄くさき手をつなぎ合ふ  森優希乃

地球儀の海の平らや日短  若林哲哉

なまはげの喉まで酒で焼けており  若林部長

(西原天気・記)



2018年4月18日水曜日

【俳誌拝読】『奎』第5号(2018年3月12日)1/2

【俳誌拝読】
『奎』第5号(2018年3月12日)1/2


A5判・本文74頁。代表:小池康生、編集長:仮屋賢一。巻頭近くに座談会「若手俳人の動向を見渡す・後編」(ゲスト:黒岩徳将)。

以下、同人諸氏作品より1句ずつ。

船室の窓は小さく鳥雲に  小池康生

人日の借りつぱなしのペン便利  仮屋賢一

流れざる小石のありて冬の川  野住朋可

耳たぶの豊かに垂れて水温し  安岡麻佑

なんとなくだるいみかんにたどりつく  茜﨑楓歌

どんと置く鶯餅に夕日射す  安藤翔

オムレツとなる卵つるりと春浅し  大元寿馬

啓蟄のそろそろ終わる野球拳  小倉喜郎

台車押す一重椿の森のなか  尾野会厘

紅梅の枝鶏卵を貫けり  金高晴人

春の鴨数ふる川の水薄し  寒天

あした穴を出ようとおもう熊であった  木田智美

春日傘人を呑み込むごと開く  桐木知実

冬草の斜めが当たる膝頭  クズウジュンイチ

春近しちくま文庫の人寝さう  くらげを

立春や瓶いつぱいの角砂糖  栗田歩

(つづく)

(西原天気・記)


2018年4月17日火曜日

〔ためしがき〕 砂糖水 福田若之

〔ためしがき〕
砂糖水

福田若之

水に砂糖の溶けひろがっていくような切れ目のない時間にあって、ひとは老人たることを他人事として遠ざけることによってかろうじて若者として生きるにすぎず、若者たることを他人事として遠ざけることによってかろうじて老人として生きるにすぎない。そんなことをしているうちに、宇宙は思うよりずっと速く燃える。成長と老化の別もなしに、ただ身体の果てまでもの代謝が、ほんの束の間を灯し尽くすばかりだ。ひとは自らの晩年のうちに生まれ、幼年のうちに死ぬ。川は流れて、草花は揺れる。それだけだ。このそれだけが、それでも尊い。

2018/4/16