2014年9月15日月曜日

●月曜日の一句〔泉田秋硯〕相子智恵



相子智恵







闇を押し闇を招きて踊の手  泉田秋硯

自注現代俳句シリーズ・八期9『泉田秋硯集』(1996.12 社団法人俳人協会)より。

盆踊は手を押し出したり、引いたり、打ったりする所作で進んでゆくが、その動きを〈闇を押し闇を招きて〉と表現した。それによって盆踊の夜の暗闇が踊る手の先にくっきりと描かれたばかりではなく、自らがその闇を押したり、呼び寄せたりしているという、闇との積極的な関わりが出てくる。もっと踏み込んで言えば、呪術性を帯びてくるのである。

盆踊は念仏踊が起源であり、もともとは盆に迎えた霊を供養し、かの世へ送り返すためのものだった。掲句はその本意に通じる不思議な世界が生まれている。

2014年9月12日金曜日

●金曜日の川柳〔伊志田孝三郎〕樋口由紀子



樋口由紀子






いつの間に寝た仕合せな人の顔

伊志田孝三郎 (いしだ・こうざぶろう) 1896~1972

本屋に行くと眠るための本が平積みされている。睡眠は現代人にとって重要な関心事である。「眠りたいのに眠れない」と不眠に悩んでいる人が多い。睡眠薬の進歩が長寿をもたらしていると聞いたことがあるが、そうかもしれない。

さっきまで話していた人が、静かになったなと思って見てみると、すやすやと寝息をたてている。幼子のように、なんともしあわせそうな顔をして眠っている。こちらまでしあわせに感じるほどの、それはそれはなんとも言えぬほどのほほえましい顔だったのだろう。こうありたい。「極楽や極楽や」と祖母が蒲団にもぐりこんでいた姿を思い出す。どんな顔して自分は眠っているのだろうか。

2014年9月11日木曜日

●九月

九月


九月靴屋の夜は自由に靴眠り  服部圭何

時計鳴る九月の草木やはらかく  田中ただし

九月来るピースの函の金の鳩  橋本さゆり


『季語別鷹俳句集―鷹創刊五十周年記念』(2014年7月・ふらんす堂)より。

2014年9月10日水曜日

●水曜日の一句〔辻まさ野〕関悦史



関悦史








子を呼びに出てたちまちに秋の暮   辻まさ野

外で遊んでいて呼び戻される子供の立場ではなく、親の立場からの句で、ノスタルジックな過去回想の世界ではなく、いま現在の生活が詠まれているようだ。

子を呼びに出てちゃんと連れて戻り、その後に「秋の暮」が到来したのならよい。しかし句からはその辺りは確定できず、子を見つけられぬままに釣瓶落としに日が落ち、闇が殺到するという不穏なイメージも張りついている。

三橋敏雄の《顔古き夏ゆふぐれの人さらひ》なども思い浮かぶが、これとも違って古い昔のことでもなければ、人さらいという明確な悪人のイメージもない。目を離されていた子と親の間に割り込み、押しつぶすような「秋の暮」があるばかりだ。

家族との暮らしを常に秘かに押し包んでいる破局の予兆や、この世にあることのものさびしさに、日常性を手放さないままさりげなく触れている句である。


句集『柿と母』(2014.4 角川学芸出版)所収。

2014年9月9日火曜日