2008年12月8日月曜日

●マスク鳥 中嶋憲武


マスク鳥

中嶋憲武



かっちゃんと散歩。

和田堀の釣り堀で、ぼーっとする。かっちゃんは缶ビールを注文、ぼくはシュウェップス。

「食えよ」というので、缶ビールのつまみに付いてきた、花びらのような白い紙の入れ物に入ったピーナッツを食う。

かっちゃんは、たくさんの日曜釣り師たちを眺めていた。

ぼくは、まるで「ル・グランド・ジャット島の日曜の午後」みたいだ、と思う。

釣り堀の外では、ソフトクリームを売っていて、食べたいと思うが我慢する。

しばらく歩くと、森のなかでスチールパンを叩いてる人がいて、そのなんていうか、密林の日差しのような音を聴く。すこしマリンバとか、ああいった楽器に似ている音だ。

まるでよしだたくろうの「春だったね」みたいなボブ・ディランの Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again を口笛で吹きながら、青梅街道を歩いていると、よそのおじいさんがシャッターの閉まっている店先に、身体を寄っかからせていた。

すこし通りすぎてから、かっちゃんがそのおじいさんの方を振り向いて見ていた。と、そのおじいさんの方へかっちゃんは歩いてゆき、立ち止まると、「どうしたんですか?どこか具合が悪いんですか?」と尋ねた。おじいさんはなんでもないというような答えを口にしたが、かっちゃんは「歩けないのなら、肩を貸しましょうか?」と言った。かっちゃんて、優しいのかもしれないと、すこし離れたところから見ていたぼくは思った。

しばらく歩いていると、肩に鳥を止まらせた人が歩いてきた。その鳥は、SMに使うような黒いマスクをしていた。すれ違ってから、かっちゃんはその人の方を振り向き、四五歩、後ずさると、その鳥男に向かって、「その鳥、何?」と尋ねた。鳥男は足を止めずに、「鷹」とひと言言って駅のほうへ歩いて行った。

ぼくが、「あの鳥、マスクしてましたね」と言うと、かっちゃんは、「猛禽類だから、突っつかないようにしてるんだろ」と言った。かっちゃんて、好奇心が強いのかもしれないなと、かっちゃんの後をすこし遅れて歩きながらぼくは思った。

駅のほうへ歩いていると思っていたのに、川にぶつかってしまった。この辺では見た事もない広い広い川だった。こちらは曇って寒いけれど、川の向こう側は、晴れていて、気持ちがよさそうだ。かっちゃんは、川を渡ると言い出した。ぼくは、それじゃ、先に部屋に戻ってますねと言い、かっちゃんの方を見ていた。

かっちゃんは、ひとりで川を渡ってしまって、それから戻って来なかった。

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