2011年2月27日日曜日

●日曜堂レコード店

日曜堂レコード店

本誌「週刊俳句」創刊直後に用意していた記事。アップロード(掲載)を先送りにしているうち、どこかに消えたと思っていたのですが、ハードディスクの隅からひょっこり出てきました。

なぜいつまでも先送りにしていたのかといえば、こんなふざけた記事(しかも俳句と関係がない)を載せていいものかどうか逡巡していたのです。当時はウラハイもなかったですから。けれども、今は違います。「なんでもアリ」にすっかり慣れてしまいましたし、このウラハイもありますから。(西原天気)




客:ガラガラ(戸を開ける音)。こんちはー。

主:いらっしゃい。

客:なんかおもしろいレコード、あります?

主:これなんか、どう?

客:レ・プレイヤーズ?

主:はい。フランスのインスト・バンド。

客:聞いたことないです。

主:1965年前半頃のシングル盤。

客:ジャケット、すごいですね。

主:バックにエッフェル塔。みんな、にっこり笑ってますねー。

客:蝶ネクタイ&パーティスーツ……。

主:痛々しいでしょ?

客:はい。そうとう。で、音は? エッフェル塔でナッシュビル、というあたり、かなり不安なんですけど?

主:曲はたしかにウエスタン。それも北欧あたりのバンドが演奏したっぽいマカロニ・ウエスタン調。

客:ううっ、ややこしいですね。

主:音を聞くより、まずライナーノート(解説)。一部抜粋。
「64年の夏は、エレキ・ギターを中心としたサーフィンが非常に流行しましたね。烈しいドラムのリズムにのって若さのはちきれそうなギターの音があちこちで聞かれました」
客:若さのはちきれそうなギターの音があちこちで?w 1964年って、愉快な時代だったんですね。

主:そらもう、そこらじゅうで、はちきれてたわけ。

客:はあ。

主:個人的には「非常に流行しましたね」の「非常に」がツボなんだけど。

客:たしかに。この「非常に」は、かなり来てます。

主:さてと、中略で、続けますね。
「レ・プレイヤーズもこの種の楽団のひとつですけれども、アメリカ系のそれと違ってかなりソフトですね、やはりコンチネンタル調といいますか、どことなくおとなしい感じです」
客:口調にコクがありますねえ、この解説文。「ですけれども」。「といいますか」。

主:でしょう? で、また中略で。
「USの奴らに負けてなるものかと、張り切って演奏しています」
客:……「奴ら」ですか。

主:そらもう、フランス人だから。

客:すごく聞きたくなってきた。

主:でしょ? でも、その前に、メンバーのプロフィールを読まなきゃ。これもジャケット裏にあります。
●クリスチャン・マルタン(ギター)
10才の時からクラシックギターをみっちり習う。幼い時にマリア修道士会に入っていた事がある。スポーツが大得意。少しずんぐりした体格の持主。いつも微笑みをうかべている。あだ名は「百姓」。
客:……。「百姓」って……。

主:ずんぐり、というから、右端がクリスチャンかなあ。

客:はい、まあ、そうですかねえ。そんなことより、どうしたら、こんなプロフィールが出来上がるんですか?

主:私に言われも困る。次はミシェル、ね。
●ミシェル・リブレッティ(セカンド・ギター)
6才の時からヴァイオリンを習い、数々のコンクールで入賞。水泳のジュニアチャンピオン。今でも毎木曜日はプールに行く。パリの下町育ちのせいで、4人の中でも一番下町っ子らしく茶目で、あだ名を「ヤクザ」という。髪はブロンド、イタリアの血統。
客:さっきが「百姓」で、こんどは「ヤクザ」ですか?

主:ねえ。もっと違うあだ名の付け方があるだろうに。ブロンドだから、左から二番目かな?

客:いや、そんなことより、「毎木曜日」って……。

主:細かいよね、妙に。ふつう、「今でもよくプールに行く」くらいにしておくもんだが、……。次はジャン・エルヴェ。
●ジャン・エルヴェ・ロウ(ピアノ)
芸術一家に生まれた為、6才よりピアノを本格的に習い、和声学、対位法も学ぶ。やせていて、濃い褐色。非常にオシャレで、ネクタイ、靴下など、細かいところまで神経が行き届いているほう。
客:「行き届いているほう」の「ほう」って!

主:ね、そこ、ツボでしょ?

客:濃い褐色は、髪のことですか。ヘンな省略。

主:次はジャン・ピエール。
●ジャン・ピエール・プレヴォク(ドラム)
イギリスのベードン・パウエル百年祭ボーイスカウト・ジャンボリーに参加、太鼓の伎倆を認められる。バスケットのチャンピオン。商家に生まれた為、はじめは宣伝マンとしての道を歩む。背が高く、髪はブロンド、金ブチの目鏡。
客:ボーイスカウト・ジャンボリー? 太鼓の伎倆?

主:まあ、そういうふうに部品を挙げると、キリがなくらいに、興味深い。

客:ま、そうです。全篇、すごすぎる。

主:じゃあ、聴いてみますか? A面からでいい?

客:いや、またこんどにします。頭がぐるぐるしてきた。

主:あ、そお?

客:では、また!


主人:井口吾郎 客:西原天気

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