2011年5月14日土曜日

●週刊俳句・第211号を読む 太田うさぎ

週刊俳句・第211号を読む

太田うさぎ

「週刊俳句」のサイトを開くときに、「さて今週はどんな表紙だろう」となんとなく期待している。比較する必要もないのだが、俳句総合誌のような季節感を打ち出した表紙とは異なり、被写体は団地だったり何かの装置のクローズアップだったり、人気のない浜辺だったり、と1年365日52週のどの号を飾ってもよさそうだ。季題趣味とは一線を画してどちらかと言えばドライなアトモスフィア。

第211号の表紙は「あれ?いつもとちょっと趣向が変わってる?」と思った。オレンジ色の濃淡と柔らかい輪郭がミスティーで、普段の写真と微熱程度の温度差がある。編集後記によると募集第一弾で藤田哲史氏の提供とのこと。なるほど道理で違って見えたわけだと納得。ウラハイの方でその藤田氏が書いている

「貼り付けてあるものとしみ込ませているもののちがいは、時間が経てばわかる、と誰かは言う。」

3月11日以降多くの震災俳句が作られているようだけれど、それらもまた、貼り付けたものとしみ込ませているものにいずれ分かれるのだろう。


写真を楽しんだあと、目次に目を移すといきなり「フクシマ忌」のタイトルが飛び込んで来た。まさしく、飛び込んで来た、というインパクトだった。ナントカ忌で人名以外と言えばまず思い浮かぶのが、ヒロシマ、ナガサキ、の原爆忌。ほかにサリン忌も聞いたことがある(感心しないけど)。作者の白井氏は広島及び長崎への原爆投下を念頭において「フクシマ忌」を考えたのだろう、季語として。しかし、8月6日の広島、8月9日の長崎、あるいは3月10日の東京大空襲とは違い、フクシマ忌とは何月何日と定められるものだろうか。事故から2ヶ月を経てもいっこうに解決の糸口がつかないどころか、これから先更に事態が悪化することも充分ありうる。住み慣れた土地を離れざるを得なくなった日、家業に終止符を打った日、人によってもそれぞれだろう。フクシマ忌とは、ピンポイント出切るものではなく、むしろこの八方ふさがり状況におかれている私達の心理のありようを指すのかもしれない。

並んだ作品10句に原発事故そのものを詠んだものはない。タイトルになっている「フクシマ忌小壜のこれガンジスの水」が暗示的としてもほかは「ケータイがわつと警報後のおぼろ」あたりが震災と頻発した余震を思わせるくらいだろうか。が、タイトルが「フクシマ忌」だとその文脈でもって一句一句を読んでしまうのが人情というもの。大胆なタイトルを持ってきた作者であれば当然それも計算のうちだろう。

  佐保姫とさしあたりポパイの受難
  給食袋いまもゆらゆら花は葉に
  暮れかねて犬替はりゐし知人宅

「さしあたり」「ゆらゆら」「暮れかねて」など、定まらない状態を指す言葉が目を引く。「結婚不向きとは思ふ」のモラトリアムも同様。タイトル句のほかに、ACのコマーシャルがその名を多くの国民に知らしめた詩人の忌の句が冒頭にある。シニカルとも思える視点が面白い。この10句のタイトルが違っていたらまた別の感想を持っただろうか。見出しと中味の関係を考えさせられた。

「俳誌を読む」は『塵風』第3号を取り上げている。私も読んだことがあるが、実に読み応えがあり、”俳句もあるカルチャー誌”といった趣を呈している。仁平勝氏のかなりのめり込んだ紹介に「おお、読みたい」とこちらもつい前のめり。最後の方、自身の著作の引用「つまり俳句は、いわば定型の根っこのところで、歌謡曲を愛する心情とつながっているのです。いくらか独断的にものをいえば、歌謡曲が好きでない人は、たぶん俳句の五七五にもなじめないと思います。」のあたりを読んでふと頭をよぎったことがある。かれこれ十年近く前だと思うが、作家で「肩甲」の俳号を持つ長嶋有氏がたしか「小説すばる」に寄せたエッセイで、五七五ならぬ五九四俳句を提唱していた。うろ覚えだが、昨今の音楽シーンにおける歌詞を見ると、かつての五七五調ではなく、九・四のリズムに乗っているものが目立つ、これは日本人のリズム感が変わってきていることを示唆するのではないか、俳句もいっそ五九四形式を取ってはどうだろう、というような内容だったように思う(立ち読みしただけなので違っていたらごめんなさい)。私は五七五定型主義だけれど、当時周りでは賛同する人もいた。なんだか懐かしい。その後五九四俳句はどうなったんだろう。


話を最初に戻して表紙のことを。たまたま平成6年、9年の『俳句』が出てきたのだが、この頃の表紙はイラストだった。デザインは菊池信義。すっきりしたいい味わいだ。週間俳句も写真だけでなく、絵の表紙なぞも如何でしょうか。ある日曜日、週俳をクリックしたら、ペンギン侍のクローズアップが!なんてのも嬉しい驚きだと思うなあ。

3 件のコメント:

wh さんのコメント...

2002年11月にネット句会「恒信風句会」で開かれた五九四句会の模様です↓↓↓
http://otd5.jbbs.livedoor.jp/520830/bbs_plain?range=20&base=832

天気 さんのコメント...

いつも、むちゃくちゃ季節を考えて選んでいるので、「1年365日52週のどの号を飾ってもよさそうだ。」の一文にはかなりのショックを受けましたwww

吉川長命 さんのコメント...

フクシマ忌は公認でない季語だが、よりによってこれを使った句を角川全国俳句大賞に投句してしまった。どうせ落ちるだろうがとどうしてフクシマ忌と詠んだのか自分でもわからない。