2011年8月8日月曜日

●月曜日の一句〔原雅子〕 相子智恵


相子智恵








地図に在る泉はみどり誰もゆかず  原 雅子


句集『束の間』(2011年8月7日/角川書店)より。

この地図は山や高原などの観光地にある、周辺案内図の看板ではなかろうか。そこに「○○の泉」といった泉の名前が書かれ、緑色に塗られている。その地図を数名で見ているのだろう。泉の名前や場所を確かめながらも、誰も行こうとはしない。自分たちのグループだけでなく、そこにいる誰もが。

季語は「泉」であるが、地図上の泉の色である「みどり」が効いている。今いる場所の鬱蒼とした木々の緑色さえも、ここから見えてくる気がするからだ。そしてその泉は、現在地よりもさらに山深い場所にあるのではないかと、「みどり」と「誰もゆかず」から想像されてくる。

そもそも普通の写生句では、地図上のことなど詠んでもつまらないだけだ。地図よりも実景を見よ、といわれるのがオチだろう。しかも季語までが地図上のもので、実際には見ていない。

ただの地図から、これだけの風景やまわりの空気、色、匂い、物語までも感じさせられるというのは、なんというか、凄腕である。

この句集、ほかにも紹介したい句がたくさんあった。内容は多彩。そしてどの句も眼前にくっきりと、立体的に世界が立ち上ってくる。


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