2011年9月30日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







オルガンとすすきになって殴りあう


石部明 (いしべ・あきら) 1939~

オルガンとすすきなら勝負にならないだろうとまず思った。オルガンとオルガンならどちらかが壊れるだろうし、すすきとすすきでは無残になる。

「オルガン」も「すすき」も比喩として私は読まない。矛盾するかもしれないが、「になって」だからである。もちろん、人はオルガンにもすすきにもなれない。殴りあってもどうしようもないことは最初からわかっている。しかし、オルガンとすすきになって殴りあうしか術がないのだ。とても哀しく、とても切ない。

靴屋きてわが体内に棲むという〉〈からっぽの身体畳んで鳥の真似〉〈老人がフランス映画に消えてゆく〉 石部明は川柳の新たな世界を切り拓いてきた第一人者である。『遊魔系』(2002年 詩遊社刊)所収。

2011年9月29日木曜日

●新宿

新宿

新宿はいつも場末やさくらもち  山口青邨

腋毛より暗い森なり新宿は  高野ムツオ

新宿ははるかなる墓碑鳥渡る  福永耕二


2011年9月28日水曜日

●浅草

浅草

浅草にうつりて蚊帳のわかれかな  久保田万太郎

浅草の靴屋は月の真下なる  斉藤夏風

花の雲鐘は上野か浅草か  松尾芭蕉


鬼海弘雄 浅草 google image

2011年9月27日火曜日

●銀座

銀座

銀座明るし針の踵で歩かねば  八木三日女

あんぱんのへそや銀座に初しぐれ  仙田洋子

人妻の銀座にキネマ・ソーダ水  筑紫磐井

銀座銀河銀河銀座東京廃墟  三橋敏雄


2011年9月26日月曜日

●月曜日の一句〔山口優夢〕 相子智恵


相子智恵








ぎんなんのどれもあかるく潰れたる  山口優夢

句集『残像』(2011.7/角川書店)より。

銀杏が落ち始める季節だ。先日訪れた公園にも、踏まずに通るのに苦労するほど銀杏が落ちていた。その半分くらいは、たしかに潰れていたように思う。

すでに人口に膾炙した句が多い『残像』には、〈臍といふ育たぬものや暮の春〉〈珈琲はミルクを拒みきれず冬〉など、否定形の句がやや目立つように思った。作者の文体の特徴(あるいは現在、若手に人気の文体のようにも思えるが)だろうか。

心のどこかに最初からインストールされてしまっている寂しさと諦めを、私はその否定形に見てせつなくなる。それでもギリギリの場所で何かに抵抗しようとする(そしてその抵抗はわりと報われない。〈珈琲〉のように…)苦しみの強さも。

この句も形こそ違えど〈あかるい〉というプラスのイメージが、結局は潰れてしまっているところに、なんとも奇妙に明るい諦観がある。

そして、一旦作者の頭を潜り抜けて読者に提示された否定形よりも、事実をまっすぐに描いたこの句のほうが、私には不思議と強い寂しさが立ち上ってくるのである。


2011年9月25日日曜日

〔今週号の表紙〕第231号 西原天気

今週号の表紙〕第231号 西原天気


ブレブレのピンボケ、というか、もう、これは、写っていないに等しい。

だいぶ前にシャッターを押したものです。写らなかった写真、ということで、捨ててもいいのですが(ふつう捨てる)、なぜか捨てない。

きちんと撮れているかどうかといった基準とは別の基準も、自分には、あるようなのですね。それがひとりよがりなものだとしても。

撮影場所:東京銀座・プランタン銀座


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2011年9月23日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







ペンギンに似ている昼という漢字

橋本征一路 (はしもと・せいいちろう) 1941~

最初はえっと思った。しかし、ペンギンの格好をよくよく見ると確かに「昼」と似ている。川柳は題が事前に出される句会、大会が盛んな文芸である。憶測だが、この句は「昼」という兼題から作られたような気がする。

昼、昼、昼と考えているうちに、テレビか何かで目にしたペンギンの姿が昼という漢字に似ていることを見つけたのだ。これで句が出来るとガッツポーズをしただろう。「見つけ」は川柳の大きな力である。

〈蛍光灯の紐がさがっている今日も〉〈ごきぶりは変わったことをしていない〉〈雨漏りを直して雨を待っている〉とぼけた味わいがある。『茄子の花』(川柳三重事務局・1995年)所収。

2011年9月22日木曜日

●音楽

音楽


音楽漂う岸侵しゆく蛇の飢  赤尾兜子

音楽はしろつめぐさの核家族  高野ムツオ

髪洗う敵のちかづく音楽して  鈴木六林男

エリーゼの為に五月蝿し花御堂  佐々木六戈

2011年9月21日水曜日

●景色

景色


春なれや夢の景色もそのやうに  上村占魚

鶯を入れて苔むす景色かな  青山茂根

滝壺に滝活けてある眺めかな  中原道夫

寒鴉歩けば動く景色かな  永田耕衣

2011年9月20日火曜日

●オノマトペ

オノマトペ



によっぽりと秋の空なる富士の山  上島鬼貫

ろりろりと印度の少女雲を噛む  阿部完一

すきものの歯のきこきこと海鼠たぶ  飯田蛇笏

ふはふはのふくろふの子のふかれをり  小澤實

さびさびとステテコくはへ昼狐  加藤郁乎

寒林を咳へうへうとかけめぐる  川端茅舎

ぴかぴかと天が近しよ杏花村  大野林火

鶯にくつくつ笑ふ泉あり  西東三鬼

菌生ゆげほんげほんと犬の咳  秋元不死男

2011年9月19日月曜日

●月曜日の一句〔天野小石〕 相子智恵


相子智恵








秋冷のオルゴールには金の針  天野小石

句集『花源』(2011.6/角川書店)より。

ずいぶんと残暑が長引いているので、掲句のような涼しさ・冷やかさがうれしい。

〈オルゴール〉というとまずは音が連想され、句にも音の方を描きたくなるところだ。しかし掲句はオルゴールの円筒をはじく金属の針、その金色を描写した。耳ではなく目で捉えたオルゴール。それであるのに、直接に音を描くよりも美しい音色が聴こえてくるように感じるから不思議である。

〈金の針〉というピンと張り詰めた美しさ。そこから連想される金属音が、頭の中に冷やかに澄んだ音を鳴らす。〈秋冷〉という季語が〈金の針〉と響いているからこそ、この澄んだ感じが出ているのだろう。〈秋冷のオルゴールには〉と、切れずに続く流れるような調べも音楽を感じさせる。またその金色から、秋風を表す「金の風」という言葉も浮かんできた。


2011年9月18日日曜日

〔今週号の表紙〕第230号 かわうそ 倉田有希

今週号の表紙〕第230号 かわうそ

倉田有希


仰向け爆睡中のカワウソです、多摩動物公園。
この個体だけではなく、ケージの他のカワウソたちも、
言葉は悪いですが死屍累々という感じで昼寝中でした。
他所の動物園でも仰向けで眠っているカワウソを撮ったことがありますから、
こんなふうに眠る習性があるのかも知れません。
そこでふと思って「カワウソ 眠って」のキーワードで画像検索してみたら、
シアワセそうに眠っているカワウソの写真が山ほど見つかりました。
インターネットは便利ですけど、すこし便利すぎる気もします。


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2011年9月17日土曜日

●ひとりじゃさみしい雑草 橋本直

ひとりじゃさみしい雑草

橋本 直


ゼクシィのCMで、樹木希林さんが

  やっぱり一人がよろしい雑草、やっぱり一人じゃさみしい雑草

とつぶやいている。これは山頭火の句のアレンジで、元の句は、
やつぱり一人がよろしい雑草 (第四句集『雑草風景』昭和十一年所収)
やつぱり一人はさみしい枯草 (第五句集『柿の葉』昭和十二年所収)。
さすがに独り身を「さみしい枯草」とすると反感買うと思ったか、二句目を変えている。なんだかアンサーソングのようだがこういう大衆的な作りかつ口語調なのが山頭火がCMコピーに使える理由なのかな。深い孤独感をうたう人なら他にもいるけれども五七五はCMで使いにくい。山頭火自身は『柿の葉』巻末で二句を並記して、
「自己陶酔の感傷味を私自身もあきたらなく感じるけれど、個人句集では許されないでもあるまいと考へて、敢て採録した。私のかうした心境は解つてもらへると信じてゐる。」
とやや言い訳めいた文言。

山頭火句は自我の分裂の自覚と葛藤と甘えが作品のテーマにあたると思うけれども、この二句もおそらくとても内輪の、私信のような意識が背後にあって詠まれ、句集に採録されていると思われる。当然自己模倣も甘えの関係の中にゆるされてある。

結局その生き様と作品がセットになって高度成長後に彼の味となって世間にウケてきた。こういうウケ方をすると嫌な人はいやだろう。

実はきちんと理論的に句を考えていた山頭火の意識の中での不易流行と、実際に彼に起こった不易流行がかみ合わないのは、志もプライドも高かった御本人には悲劇なのかもしれないけども、世間を読み過ぎて失敗する作家より幸福かもしれん。

現在俳句外の人に最も読まれる明治以降の作家であることはもうちっと俳句の内側の人に評価されていいとも思う。


2011年9月16日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







菊貰う菊より美しい人に

丸山弓削平 (まるやま・ゆげへい) 1907~1990

菊の美しい季節になる。私は田舎に住んでいるので、田畑には菊がよく植えられているのをよく目にする。それらは菊花展に出品するような豪華で丹精のこめたものではなく、野菜が植えられている隅に仮住まいしているように咲いている。そのほとんどは小菊である。子どものころ(生家も田舎だったので)、なぜ田畑に菊を植えるのかが不思議でならなった。だれに見せるつもりのものなのかと思った。あとでそれは仏壇や墓に供えるためのものだと知り、納得した。

仏さんにと菊をもらったのだろう。そう言ってくれた人は美しかったのだろうが、そのように思った弓削平の心根のやさしさがあらわれている。

岡山県のほぼ中央に川柳の町「弓削」がある。丸山弓削平は戦後の混乱の中、「川柳によって新しい町づくりをしよう」と昭和24年に弓削川柳社を創立し、「川柳の町」運動に尽力した。

2011年9月15日木曜日

●おんつぼ40 Stan Getz; Focus 西原天気


おんつぼ40
Stan Getz; Focus

西原天気


おんつぼ=音楽のツボ



ジャズの人がストリングス付きでアルバムを録音する、あるいはクラシックの交響楽団と共演するという企画のアルバム、ハズレも多いようですが、アタリ(と私が思う)で有名なのは、チャーリー・パーカーの「with strings」。あと、ビル・エヴァンス・トリオの「with symphony orchestra」は、好悪が分かれるでしょうが、私、けっこう好きです。

で、スタン・ゲッツ(1927 - 1991)の「フォーカス」。スタン・ゲッツといえばボサノヴァなわけですが、このアルバムについては、そのイメージははずしたほうがよいです。

アレンジのエディー・ソーター(1914 – 1981) は、スイングジャズ時代からキャリアを積んだアレンジャー。でも、この「フォーカス」、あまりジャズっぽくはありません。いい意味でイージーリスニング的な肌合い。

1961年秋録音で、発売は1962年。日本では植木等「無責任一代男」「ハイそれまでョ」や橋幸夫と吉永小百合の「いつでも夢を」がヒットした年ですね。このギャップ!

ま、それはともかくとして、「なつかしモダン」な香りと知的な挙措を備えたのこの「Focus」、夏の終わりから秋にかけてのひとり居にぴったりと思いますです。


それにしても、ウィキのスタン・ゲッツの項の貧弱なこと貧弱なこと。草葉の陰で泣いてるぞ。



2011年9月14日水曜日

●満月

満月

2011年9月13日火曜日

●clair de lune

clair de lune

2011年9月12日月曜日

●月曜日の一句〔青山茂根〕 相子智恵


相子智恵








塔あらば千の虫籠吊るしたし  青山茂根

句集『BABYLON バビロン』(2011.8/ふらんす堂)より。

この〈塔〉が私に、異国の塔(たくさんの鐘がディンドンと鳴る、石造りの古い教会や、時計塔のような)を思わせるのは、『BABYLON バビロン』という句集の佇まいと、異郷をゆく漂鳥のように一見華やかに見えながら、心の奥底には漂泊の寂しさと諦念、だからこそ詩に生きようという強い矜持の入り混じった、作者の無国籍な句群による。

なにしろ〈千の虫籠〉である。虫一匹を身近に鳴かせ、秋の風情を楽しむ日本の情緒の中の〈虫籠〉とはスケールが違う。吊るされた高い塔の上で、夜ごと鐘の音のように、一斉に鳴き募る囚われの千の虫たち。なんと美しく、そして残酷な夢であろうか。

そして私はさらに夢想するのだ。

ある晩、この囚われの〈千の虫籠〉が一斉に解き放たれ、千の鳴き声とともに、虫たちが夜空に飛び立つ姿を。そのキラキラとした羽が星屑のように、夜空に撒き散らされることを。


2011年9月11日日曜日

〔今週号の表紙〕第229号 背高泡立草 西原天気

今週号の表紙〕第229号 背高泡立草

西原天気



ひところ、というのは私が子どもの頃から若い頃、どこの田舎に行ってもセイタカアワダチソウだらけだったのに、それから、あまり見なくなった時期があったような気がします。

セイタカアワダチソウには自家中毒の作用があって、殖えすぎると、毒が効いて自滅していくのだという話を聞いたことがあります。もし、それがほんとなら、獰猛なまでの繁殖力を誇るセイタカアワダチソウにも、一種、慎ましさがあるということになります。

ある程度減ったら、また、どんどんと殖え、他の植物を駆逐していくのでしょうが、現在は、増殖と減退、どちらの時期にあたるのでしょうか。



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2011年9月10日土曜日

【俳誌拝読】『静かな場所』第7号を読む 西原天気

【俳誌拝読】
美しい薄さ
『静かな場所』第7号(2011年9月15日)を読む

西原天気


発行人・対中いずみ。本号から「体制も意匠も新しく」なったと編集後記にあります。さわやかに美しい表紙。本文は16頁と、極薄。

同人5氏の俳句作品が見開きに15句ずつ。同人諸氏による「田中裕明の一句観賞」が巻末近くに配される。招待作品は高柳克弘「光堂」15句。青木亮人の連載「はるかな帰郷~田中裕明の「詩情」について」は本号が第1回。

  月光にすててこの脚組みにけり  対中いずみ

  何事もなき日のごとく囀れり  藤本夕衣

  一行のさみしさに鳥渡りけり  満田春日

  蔵の前明るき色に苔咲いて  森賀まり

  さやうならみんなはくもくれんのはな  和田 悠

  すみれ野を馳せよ黙示録の喇叭  高柳克弘

2011年9月9日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







恋人の膝は檸檬のまるさかな

橘高薫風 (きったか・くんぷう) 1925~2005

〈恋人の膝は檸檬のまるさ〉これって恋人を褒めているのだろうか。現在の若い女性なら檸檬のまるさと言われてもピンとこないだろう。それよりももっとインパクトのある、いかにも美しいと言う褒め方をしてほしいと望むかもしれない。物や情報などありとあらゆるものが溢れるとこの程度のシンプルさではなかなか満足してもらえない。味気ないことである。

初恋の味はカルピスだった。それももうすっかり古くなってしまった。先日ある句会で「百円札」の句を出したら、「ピンときません」「年齢が分かります」と言われてしまった。

檸檬といえば、鮮やかな黄色がぱっと目に浮び、酸っぱさが口の中に広がり、質感とともに恋を象徴している。膝というのは微妙なところである。橘高薫風は麻生路郎亡き後、同志と川柳塔社を興し、編集長となる。抒情性のある作品を多く残した。『檸檬』(1965年刊)所収。

2011年9月7日水曜日

●週俳の誌面は皆様の寄稿でできています

週俳の誌面は皆様の寄稿でできています


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2011年9月6日火曜日

●10句競作(第2回)応募作品

10句競作(第2回)応募作品

作品1点追加 2011.08.25

本誌募集の10句競作(第2回)は34作品と、前回と同様多数の御応募をいただきました。誠にありがとうございます。審査・選考の骨子・日程が決まりましたので、以下にお知らせいたします。

1 825日(木) ウラハイに応募作品を掲載(コメント欄に感想等を自由に書き込んでいただいて結構です)

2 91日(木)22:00より ●10句競作(第2回)の件審査選考ライブ。上記記事のコメント欄にて進行します。第2回の審査員は、榮猿丸氏、青山茂根氏、中村安伸氏。haiku&meの3氏です。

3 審査選考ライブにて、本誌掲載作品を決定(時間切れの場合、日時を改めて、続・審査選考ライブに決定を持ち越します。

4 【本日】9月6日(火)22:00より●10句競作(第2回)の件審査選考ライブ続編。上記記事のコメント欄にて進行します。第2回の審査員は、榮猿丸氏、青山茂根氏、中村安伸氏。haiku&meの3氏です。

感想etcはご自由に(≫コメントの書き込み方
1日の審査選考ライブを待たずとも結構です。

更新ボタンorF5キーで、最新のコメントをお読みください。



9月6日(火)22:00より当エントリーのコメント欄にて。
青山茂根、榮猿丸、中村安伸の3氏による審査選考ライブ続編

ご不明の点等ありましたら、seventhfox@gmail.com (生駒大祐宛)まで。

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【01 新・露出狂】

水泳帽を小田原に忘れけり
友人の紹介といふバナナなり
先生の桃色乳首草相撲
海月赤し深層心理なる夢精
緑蔭はどこへ水道管を罅
性的興奮中のはんざきなり
冷房に老いて激しき勃起なり
びちよびちよをぐちよぐちよにして桃食ひぬ
しやぶれしやぶりつけ西瓜しやぶりつくせ
戦後とはまさしく女陰大西日

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【02 株主総会】

想定問答繰返し明易し
株主の蟻の如くに来りけり
アイスティー飲み株主の語らへる
株主の席に置かるる団扇かな
会場のマイク係の玉の汗
異議なしに異議ありと云ふ白扇子
壇上の麦茶の滴だらけなる
円団扇決議に賛意示すかな
株主の後姿の夏帽子
総会の果て冷房の音大き

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【03 夏の傷痕】

炎昼のレバー貪るはとこかな
白南風の吾子の歯めきめき伸びにけり
服乱れしをんなゆるりと西瓜にのまれ
月光の乳房嬲る青鉛筆
二歳児に小児性愛を説く秋桜よ
台風や真つ赤になつてつきまとふ
なめくぢの残滓を跨ぐ団地妻
月光の石榴残してソープ嬢変死
夏の傷痕季節過ぎてもまだ癒えぬ
氷河期の気分味はふ雀かな

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【04 炎昼裡】

一行詩青い岬の尖端に
朝市の水が飛びつく跣かな
炎天や道は火が這ふ導火線
街中の印刷がずれ炎昼裡
炎帝に一縷の黒も許されず
大鳥居より片蔭を授かりぬ
風鈴のごと炎天に城うかぶ
蝉しぐれ寺院寺院に耳吊るし
はつきりもくつきりもゐる樹陰かな
ヨット入港夕焼けの幕が下り

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【05 座禅】

達磨さま蚊音にくしゃみ心太
仏法僧ストリートダンス木漏れ月
ヘッドフォンロックにしみる蝉の声
朝コーヒお釣りの手触れ梅雨晴間
目薬でまつげ流され戻り梅雨
炎暑かなお化け屋敷が停電し
日射病白犬家族ソフト舐め
イヤホンにうなじ取られて朝顔は
ボストンはクラムチャウダーしじみしる
日の本の達磨は起きる忍草

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【06 片膝】

上手より名優出でし夏芝居
新幹線改札口の花氷
地図にある川の蛇行や秋暑し
雑草を分けて水引草長し
八月大名港の見える座敷かな
片膝の膝にのりくる茄子の馬
皆人の整列したる流燈会
大広間静まり返る盆の月
銀漢の先端天主堂につき
流星の海へ海へと落ちゆけり

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【07 無限接点】

マンボウのまばたき車輪の発明
対話篇からはみ出す赤いストロー
泣きながら遠くへ投げる聴診器
長袖のシャツでくるんだ父の首
始まりを思い出すまで手をゆすぐ
消火用ホースに腋をくすぐられ
樹液すずやか責任感のある眼球
へその緒を液晶画面にくぐらせる
疼痛がノートに置いた玩具にも
日本語を嗅がすと汗をかく表土

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【08 夏休み】

甘味屋の夏暖簾より呼ばれけり
そこここに着信音や街薄暑
江ノ電の窓をはみ出す雲の峰
手作りの風鈴並ぶ無人駅
テーブルに猫の跳び乗る海の家
欄干に凭れてバナナ剥いてをり
玩具箱より溢れたる夏休み
宿題のノートに西日届きけり
ミルキーのとろんと甘く合歓の花
まだ潮の匂ひ残れる夏帽子

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【09 Summer In The City】

高速道の大き片蔭町つらぬく
美少女が団扇を配る繁華街
コンビニの埋蔵アイス探査せる
太陽と笑ひの飛沫区民プール
名画よく冷え冷房の美術館
駅徒歩5分マンション全戸西日のドア
夕焼の残照に浮く高層ビル
パチンコにつぎ込み夏の星降らす
駅のホーム混み合へれども夜涼かな
列車の灯銀の鎖や夏の果

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【10 夜 叉】

葛あらし絡繰木偶が夜叉となる
なまなまと海鳥の鳴く展墓かな
潮嗄れて天牛鳴くよ箱の中
人形を焼く栴檀の実の下に
穂孕みの風に柩を運び出す
早稲の匂ふや骨壷に骨満ちて
月代の裏戸より舟出しにけり
月待つや肉桂の枝噛みながら
蛇穴に入る時きつと宙を見る
曼珠沙華眼の筋肉の衰へて

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【11 蝉鳴くや】

山門に気勢をあぐる蝉嵐
向日葵の千の眼の見し殺人者
被災地の牛舎に残る扇風機 
虹の橋登りはじめる兎と亀
驟雨きて街に火薬の臭ひ満つ
遠雷と原発事故の光化学
金蝿よ俺の額は生きてゐる
蝉鳴くや六日九日十五日
炎天に孤独死のゼロの広報車
ブナ林にゲンパツと鳴く秋の蝉

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【12 情熱諸島】

不意打ちは女人高野の自販機か
にせもののタンバリン買うかの裸族
情熱でやつめうなぎにふたをする
怪獣のかさぶたじょうの和平かな
鶏頭とするだるまさんがころんだ
仏壇を投げればぜんぶコヨーテだ
肺も骨も脳をおいぬき秋の朝
ながれぼし一円玉は浮きすぎる
横綱は枯葉をつけて現れる
青葱のしろいところは父の番

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【13 地球空洞説】

行き止まりばかりではない半ズボン
萬歳に圍まれてゐる暑さかな
アルピノがアルピノを喰ふ夏館
夏草の誰かが掘つた落とし穴
生き埋めになることもある流れ星
地下道の階段濡らすラムネかな
ダダ漏れの個人情報蟻地獄
夏蝶や地球の裏側へと放つ
ラッカーとポーとウェルズと夏料理
これからは嘘だけついて端居して

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【14 だれにともなく】

なにがなし桑の実食うて国想ふ
水馬たゆまずやまずおなじ位置
幼ゆび指せばへんぽん蛇の衣
遠花火音待つこころ沸と湧く
燕の巣そこに迂曲の風とほる
蝙蝠のばらばら騒ぎくる逢瀬
うつしよの蛇身曝して川渡り
採血の針刺し直すアマリリス
またひとつ夕日が沈む原爆忌
蝉時雨だれにともなく黙祷し

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【15 夏の果】

本堂の無道の墨書涼しかり   
イエスタデーBGМに魂迎
黒文字の水羊羹をなだれゆく
空蝉となり静脈をさらしをり
みんみんのみんともいはず夏の果
高殿を深くとよもす法師蝉
夕暮れて蝉時雨より虫時雨
田の神のビルの間や秋暑し
折鶴の白ばかりつり稲つるび
遠くより煙の匂ひつづれさせ

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【16 ヴァカンス】

豊の秋たましひつぶしたまふ日の
発語して光をにごす須臾となる
天と地を構造できず百舌しづか
われもかうゐるやうでゐてゐないやう
イッヒ・ロマン棄てにけり小鳥くるたびに
空棚に在るいつまでも鳥影が
白桃の手よまれびとを抱かずとも  
宵闇や白い果肉に食われゆく
あてのない手紙のやうに折れ曲がる
ヴァカンスやすべからく季節崩ゆるべし

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【17 雨】

バナナ腐る雨は降らないだろう傘折る
ハリボテのソフトクリーム雨に溶ける
よほほと嗤ふあんなに快晴だつたのによほほ
嗚呼予想を裏切つてカアテンの裾が濡れた
雨降る否降りやがるのだキスしたら駄目かよ
喧嘩した雨音のかゞやきが邪魔で邪魔で
手をつないでやらんでもない水たまり
びちゃびちゃのブランコ漕いで乾くまで逃げんな
いろんなものが滴るなかに手もあった
この雨を無理やりまとめる虹を作らう

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【18 夏桃さん】

冷蔵庫の中から取り出す夏休み
黄桃をもてはやしてる吉祥寺
どぶ川に流れるきみの桃本や
夏の日にコンドームと桃拾う友
あと少しあいつの桃の季も終はる
白桃の如きあなたの膝枕
ストッキング皮を脱がせて食べやうか
半分にけつを割つたら美味な汁
願わくは桃の忌になれ くそやろう
白桃はシンデレラなので帰ります

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【19 離味句素】

吾一人置いて立ち去る鰻かな
いかづちにまかせて泣けよオットピン-S
酸漿剥いて歯科を明るくしてあげた
天の川わたる南京豆離脱
幻影は二十世紀を齧る姉か
エレジーのたとへば秋の小樽運河
排卵がなくて滑子のしらべかな
鹿威し貫く業の如きもの
渋柿や痴狂ひにして人の美味
人間を並べておけば交(さか)るなり

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【20 晩夏】

吹き抜けのヨガスタジオや仏桑花
バナナ食ぶ朝一番のヨガクラス
ピアソラに酔ふごと昼の冷酒かな
夏深し崩して食ぶるタコライス
晩夏へとロングボードの漕ぎ出しぬ
モニターに映る花道秋立てり
秋蟬や公園に向く楽屋口
小劇場のチラシ分厚き世阿弥の忌
虫の音や補修されたる歌詞カード
輸入盤開けると匂ふ夜長かな

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【21 行つたきり】

うきくさの高きところに星盛る
箱庭を真白き舟のもり上がる
あたらしき蜘蛛の囲に水つもりけり
洗つても洗つても砂大西日
蓮の葉と空の埋もれて午後来たる
階段の蟬の骸が濡れてゐる
鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに
初秋やゆふかぜ朱鷺に長くふき
月の出を待つ間に森の闌けにけり
おとうとの七夕笹の行つたきり

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【22 あちら・こちら】

草刈の野にひしめくや小説家
蜘蛛の囲や少女のふるふ大鋏
ゆらゆらと子ら運ばれてゆく緑
輪郭の確かなわたし髪洗ふ
夏月に眠りの糸が垂れてをり
花あやめここは子供の来ない家
箱庭に人差し指を棲ませけり
ちちははの緩慢な水あそびかな
蛇苺そこから先が死者の国
たましひのかたちの小石夏ともし

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【23 生簀】

花過ぎてプロレスの来る広場かな
噴水に鳥の名あまた知る人と
プールより見ゆる生簀のレストラン
一雨きて蛍日和と言ひにけり
とりあへず丼に受く兜虫
盆僧のまへにビー玉転がり来
アッパッパつかめば婆が抜け落ちる
草笛吹くデモ行進に連なりて
恐竜の尻尾重たし夏の果
三叉路の左右とも霧うしろも霧

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【24 果実】

ハート型蜜内蔵のリンゴ一顆
花のごと皮をひろげてミカン食ぶ
黒ブドウ一粒ごとの一輝点
イチヂクや平然とつく嘘に嘘
ザクロ裂くまず付け爪を外しては
前世はバナナと信じつつ食す
握りたる手よりトマトの溢れ出す
石版の堅さ冷たさみたいなナシ
眼窩にはイチゴををさめ少女たち
書信代はりに送る富有柿ふたつ

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【25 暮れる】

蛇口より懐かしきものかよひくる
渦巻の途中の二重丸は良し
花びらの目ならば目びらとも言ひぬ
似顔絵とならずに顔の絵が暮れる
引つかけるため頂点が三日月で
蔓巻きぬ楽器となれば良かりける
海賊は水を含んで重かりき
されば鮫を次男とすれば分かるなり
魂と裸連結して褌
冬空に干せば消しゴムらしくなる

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【26 全力】

マスクして菜虫を殺す霧をゆく
ががんぼの窓を叩いてゐる全力
羽蟻に羽ありて暮らしは変はりなし
灯を消して火蛾百匹とゐるぬめり
蜘蛛潰す音つぎの日もそこにある
黒蟻の何も担がぬ白き昼
糸蜻蛉墓石は聖書開くかたち
蝉落ちてお悔やみ欄に乗せてやる
放埒の貌を叩いて黄金虫
十匹に一匹足りぬ晩夏かな

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【27 三分の一】

初夢に母と話せば覚めにけり
子の肩に触れてはじけししやぼん玉
春愁ピアノの埃つよく拭く
振り返りやがてまつすぐ入学子
ふらここを少し揺らして降りにけり
後ろ手に子は手紙持ち母の日よ
初任給手渡してゐる帰省かな
打解けしいとこ同士や踊の輪
全集の前の持ち主夜の秋
抽出しに方位磁石や夏の果

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【28 夏の谺】

夏館ソプラノ纏ふ天使像
一眼のあり向日葵も原子炉も
夏深し闇に伸びゆく倉梯子
いま吾子にはじめの記憶草清水
冷酒一盞雲滑らせて空は坂
泣き終へて松山鮨のどこ崩そ
木曜のくちづけ涼し切子玉
ラマダンの大皿に盛るダリヤかな
花火の夜人を待たせて遠目なり
二万年のちにも仔ども猫じやらし

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【29 尾行】

テロリストの墓飾るための菊ことごとく
黒猫に尾行されてた月角曲がる
髪洗ふ巫女百人の紅き爪
チェシャ猫一番涼しい場所に浮いている
君の体届けに君の棺追ふ月夜
猫のゾンビ鼠のゾンビと虹ばかり
青い月。暗闇にリムられてゐる
最初の猫がまだ遊んでる宵闇
十年分の抗鬱剤ぶちまける秋の海
夜開く猫の保健室の風鈴

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【30 夜の果ての旅】

忘却の革命の血のさくらんぼ
シエスタの人買ひ薄目あけて眠る
殺むれば音の気になる冷蔵庫
疲鵜にだいぢやうぶだいぢやうぶと云はれけり
八月の甘納豆を深読みす
へうたんにハイとこたへて魂(たま)抜かれ
ジョーホーホシジョーホーホシと秋の蝉
水澄むや一つ根に離れ浮く平和利用と核武装
心中の片割れとして盆をどり
「夜の果ての旅」に誘ひぬ夜学子は

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【31 春雷】

風雪に曲がりし木々も芽吹きたる
或る日胸に春雷が落ち今がある
玫瑰や雨に消されし波の音
病葉の重なりゆける水の底
ひねくれし胡瓜どれもが無農薬
ふたりとは一人と独り夜の秋
砕け散る硝子色なき風となる
倒れてもおのれを曲げず曼珠沙華
音もなく翅を使ひし冬の蠅
星冴えて太古の空を取りもどす

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【32 十点鐘】

  一月三十一日 ジャイアント馬場
王道忌静かなる光源月明かり
  四月二十八日 ルー・テーズ
鉄人忌しなやかな筋肉(にく)の美しき
  五月十三日 ジャンボ鶴田
怪物忌書き掛け論文めくる風
  六月十三日 三沢光晴
喉鳴らし猫の背伸びや翠玉忌
  七月十一日 橋本慎也
豪雨去り天跨ぐ虹爆勝忌
  七月十七日 ブルーザー・ブロディ
超獣忌雄叫びこだまし空を舞う
  七月二十八日 カール・ゴッチ
偉大なる力の哲学ゴッチの忌
  八月二十八日 山本小鉄
道場に古びた竹刀や軍曹忌
  十一月二十五日 星野勘太郎
喧嘩屋の拳の早し突貫忌
  十二月十五日 力道山
人を超え神となる意志力道山光浩の忌

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【33 卯の花にほふ】

郭公や次男に妻のやうな嫁
青かへで小股の切れたをなご抱く
入道雲抱へきれないまま絶句
卯の花にほふ「かあさん」と言ふ口癖
残暑かな「雨ニモマケズ」を諳んじる
線香のけむり真っ直ぐ遠花火
時計草虫の音止むと泣く子かな
締め切り迫る鈴虫に部屋明け渡す
悪字を打つパソコン画面水中り
クマゼミ鳴くマイクを持った好好爺

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【34 御来迎】

山彦に応へて手振る雲の峰
空眩し雲海の上に出でたれば
赤岩の頭と称へ雲海に
御来迎斜め後ろに立ちてゐし
御来迎虹に呑まれて消えにけり
駒草に近づけてゐる目鼻かな
駒草やカイゼル髭を撥ね上げて
駒草や八ヶ岳(ヤツ)の外れの天狗岳
マジックの校名かすれ大テント
天幕村に酒飲みに来し小屋泊まり

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以上 34作品

2011年9月5日月曜日

●月曜日の一句〔四ッ谷龍〕 相子智恵


相子智恵








渡り鳥鏡を抜けて来しもあらむ  四ッ谷 龍

「むしめがね」第19号(2011年8月)「こだま」より。

台風ごとに空は高くなる。高い空の北の彼方から、渡り鳥たちが今年もやってくる。

はるか上空を渡る鳥たちがまとっている空気は、キラキラと、凛と、冷たい空気だろうか。秋の大気に、鏡のような輝きと冷たさが思われた。

……いや、そうではない。

本当に渡り鳥のいくつかは〈鏡を抜けて〉来たのだ。比喩的な連想は働きつつも、やはり鳥は〈鏡を抜け〉たのだ。この句にはそんな美しい説得力がある。

〈鏡を抜けて〉という詩的な羽ばたきと、鳥が渡る秋空の実感。その二つのイメージが高いところで融合され、美しい一句に結晶している。

6年ぶりに発刊されたという「むしめがね」は読みどころが多い。なかでもフランスの作家ティエリー・カルザスによる冬野虹論「ぶらんこの上の虹」は美しい音楽のように、静かなフィルムのように、芯をふるわせる。


2011年9月4日日曜日

〔今週号の表紙〕第228号 蕣 常盤優

今週号の表紙〕第228号 蕣(あさがお)

常盤優


二年前の夏休み初っ端、総ての仕事をなげうって屋久島へ出かけました。
子どものころからずっと待ち続けていた、国内で見られる皆既日蝕を観測するために。
でも、皆既帯に入る僅かな時間を狙ったように無常の雨雲が上空を蔽ってしまったのです。
辺りは静かな闇に包まれ、不思議な風が流れ、鳥たちが啼いているのをただ聞き入っていました。
隠された光球から大空に放散するコロナは、とうとう見ることができませんでした。

暑い暑い夏から少し涼しさを感じられるようになってくる頃、元気に咲き始めるあさがお。
「蕣」の草冠を取ると「舜」。中国の古代神話の太陽神なのだそうです。
こぼれ種から咲き始めたあさがおの、そのなかに夢に見たコロナがありました。


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2011年9月3日土曜日

●September Song

September Song




定型が滅ぶとすれば九月かな  筑紫磐井


2011年9月2日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







大抵のことはバナナでケリが着く

丸山進 (まるやま・すすむ) 1943~

ケリが着かないことが次から次へ出てくる今の世の中になんとノーテンキな句であろうか。が、そう思わすところにこの句の味がある。バナナでケリが着くのなら苦労はしない。しかし、あくせくしてもどうにもならないのなら、バナナを食べて落ち着くしかない。〈人参を並べておけば分かるなり 鴇田智哉〉の川柳版かなとも思う。

民主党の代表選挙は野田佳彦氏でケリが着いた。現実はこんなケリの着け方をするのだ。

〈約束は全部忘れた河馬の口〉〈身の置き場なくて鴨居にぶらさがる〉〈耐えているベルトの穴は楕円形〉シニカルで飄々とした味わいがある。『アルバトロス』(風媒社刊 2005年)所収。