2011年10月14日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







滑り台怒ったまんま降りて来る


金築雨学(かねつき・うがく)1941~

「怒ったまんま」と言われて、はじめて滑り台を怒った顔で降りてくる人が少ないことに気がついた。滑り台から降りるときにほとんどの人はなぜか笑っている。口を半開きにして、照れくさそうに滑ってくる。遊具というのはそういう意識で接するもので、そのような意識を持たせる強制力があるのかもしれない。

いやだと言うのに無理矢理滑らされたのだろうか。滑り台をすべったことぐらいでは解消できない怒りがあったのだろうか。「まんま」だから、下に降りて来るまでずっと怒っていたのだろう。笑って降りて来ると思い込んでいる心理の落差をついている。

お悔やみの言葉を言い慣れてしまう〉〈白という面倒くさい色がある〉〈どこまでも追いかけてくる郵便夫〉 雨学の句はあたりまえのことをあたりまえに詠んでいるのに、どこかこわい。川柳作家全集『金築雨学』(新葉館出版 2009年刊)より。

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