2012年4月9日月曜日

●月曜日の一句〔南 うみを〕 相子智恵


相子智恵








虚子の忌の蚯蚓はな屑まみれなる  南 うみを

句集『志楽』(2012.3/ふらんす堂)より。

昨日、4月8日は虚子忌であった。

さてこの句、〈虚子の忌〉〈蚯蚓〉〈はな屑〉と季語のオンパレードで、いわゆる「季重なり」の句だ。ただこの句の場合、その季重なりには計算されない実景の強さがある。表現の方は「花屑」と書かずに〈はな屑〉と書いて「花」の強さを抑え、主季語の〈虚子の忌〉を際立たせるなど、繊細な計算が働いているが、描かれた景の方は計算がなく、リアルで野太い。

散り敷いた桜の花びらと、土の上に思わず出てしまい、花屑まみれになりながらくねっている蚯蚓。美の象徴ともいえる桜の花と、気味の悪い蚯蚓に、美醜を超越した生命力を感じる。桜の木の根元の、湿った黒土の匂いがする。

花屑と蚯蚓だけでも一句は成立するのに、作者はそこにわざわざ虚子忌を持ってきた。この景と虚子忌との響き合いがまた、面白いのだ。

虚子は自身が提唱した「花鳥諷詠」のイメージからか、美しき正統派という印象を与えるところがあるが(もちろんそういう句も多いが)、虚子の本当の凄みは〈酌婦来る灯取蟲より汚きが〉〈川を見るバナナの皮は手より落ち〉〈爛々と昼の星見え菌生え〉のような、美醜を超越した句の、ブラックホール的な吸引力の強さにあるような気がする。この句は、虚子のそんな美醜を超えた底なしの魅力を思い起こさせる。

0 件のコメント: