2012年4月27日金曜日

●金曜日の川柳〔田中五呂八〕 樋口由紀子


樋口由紀子








欠伸したその瞬間が宇宙です


田中五呂八(たなか・ごろはち)1895~1937

春は眠い。眠いとき退屈なとき疲れているときについ欠伸が出てしまう。欠伸は血液中の酸素の欠乏などで起こるらしく、あまりみっともよいものではない。しかし、この句は宇宙とつなげた。欠乏で起こる欠伸がなにやら別のものに思えてくる。そういえば欠伸をすると耳がしゅんとなるが、異次元につながっているからかもしれない。

新興川柳には宇宙を詠んだ句がなぜか多い。宇宙は現実の時空ではなかったのだ。未知の比喩で、あこがれであり、大きなもの、日常の些事を忘れさせるものであったのだろう。

田中五呂八は新興川柳の祖と言われている。小樽から川柳誌「氷原」を創刊した。「表現」を意識していたのだろうか。「新興川柳」とは五呂八が名づけたもので、のちの「新興短歌」「新興俳句」運動の先駆をなしている。五呂八は川柳は詩であり、短詩型文学でありたいと願った。〈人間を摑めば風が手にのこり〉〈足があるから人間に嘘がある〉〈人の住む窓を出てゆく蝶一つ〉

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