2012年5月5日土曜日

●これなら彼女がいても大丈夫 上野葉月

これなら彼女がいても大丈夫

上野葉月


やっぱりプリキュアはふたりが基本だと思う(俳人らしく時候の挨拶)。

なにしろ女児向けの番組なのだから、バトルシーンにばかり力を入れず、ふたりの女の子がねちねちゆりゆり人間関係に悩みながら半年保たせて、ネタが尽きてきたところで追加的に戦士を増やし残りの半年保たそうってぐらいじゃないと、プリキュアの名にふさわしくないように感じられて仕方がない。一昨年以来、高校生プリキュア!前期高齢者プリキュア!小学生プリキュア!ときた以上、今期はついに後期高齢者プリキュア登場か!?

と、はらはらどきどきするのがプリキュアの醍醐味ではなかっただろうか。

それなのに今期は初めから五人もいる上に五人とも中学二年生クラスメイトで全員ボケキャラ(それって本当に画期的なのか?)しかも中二にもなってノーブラだなんて…、イカイカイカリン、いかんでゲソ(抑えきれない魂の叫び)!!

閑話休題。

少し前のことになるが、ある雑誌に載ったというアンケートをインターネットのサイトで見た。

質問は「貴女は恋人(or婚約者or配偶者)が美少女フィギアをコレクションしていることを知ったら別れますか?(というような内容)」で、結果は半数以上の回答者が別れないと答えている由。ちゃんとパーセンテイジも載っていたように思うが残念ながら細かい数字は失念してしまった。

この手の調査をみるとライターが七人ぐらいの周囲の二十代女性に聞いただけでそれをもとに記事を書いているんじゃないかといつも疑ってしまうのだが、どうなんでしょうか。

私が見たサイトではこの半数以上の別れないという回答が意外に大きな数値として扱われている印象だったけど、私は特に別れないという回答の割合が多いとは思わなかった。

オタク系女子はパートナーがフィギアとか集めていても、むしろ自分の同人誌コレクションを捨てられたりする心配がないので、そういう趣味を歓迎するような気もする。

オタク系女子なんて言うと際立って特徴的なそういう人種がいるような気もしてくるけど、一般的に女性は男性に比べれば概ねインドア派だから、オタク的な行動様式や心性は女性一般の中で特に珍しいわけではないと思う。言い換えれば女性一般は男性一般にくらべればオタク率は高いのでオタク女性は一般人に紛れ込んでいて区別がつきにくい。
世界中どこへ行っても刑務所の人口比は圧倒的に女性が少ないし(あんまり関係ない話)。

オタクとか腐女子なんて言葉の無い時代からイラストを書くタイプの女性の知り合いが多かったけど、傍から見る分には彼女たちはパートナーの趣味には寛容な印象があった。

思い出してみると私は長年生きてきたが彼女なんてものができた試しがないので(なんか書いていて死にたくなってきた)、彼女に嫌われるというのが実際にはどういうことかよくわからない。

そういえばかつて「このマンガが好きだと口にすると必ず彼女(or婚約者or配偶者)から嫌われてしまう」という噂される有名作があった。
ヤングユーに連載された『Papa Told Me』がそれである。

TVドラマ(私は未見)にもなった人気作なので知っている人も多いかも知れないが、内容を要約してしまえば奥さんを早く亡くした男やもめの小説家が忘れ形見の小学生の娘(知世)を男手ひとつで育てている話である。

このマンガをひとたび好きだと言ったら彼女から口も利いてもらえないほど退かれてしまうということすらあるらしい。友達の友達から聞いたような話なのでさほどアテにならないけど。

何年も前にマンガ喫茶で向学のために単行本を読んだが、それなりに面白くて楽しめた。でも全巻読まなかったところを見るとあんまり自分の好みではなかったのかも知れない。ただ酷い嫌悪感は無かったことは確かだと思う。漠然とついて行けないなあという感触は残った。父親の職業が自宅勤務者という辺りはうまいなと思う。

このマンガに関して「娘はセックスをしなくても許してくれる妻である」という身も蓋もない意見があることを知ったのは読んでからしばらく経った頃だった。「娘はセックスをしなくても許してくれる妻である」、う~ん、世の中には酷いことを言う奴も居たものだ。

知り合いの***書店の編集者はいい歳して(私と同年)いまだに女性から「バカッ!」とか「あんたなんか大っ嫌い!!」とか言われることがあるらしいが、よく考えてみると私は世界中のありとあらゆる人間から「バカッ!」とか「あんたなんか大っ嫌い!!」とか言ってもらった経験がない(書いていて本当に死にたくなってきた)。

そんなことをつらつら考えているうちに昨今の子育て系とも呼べるタイプのマンガの中でこれを好きだと言っても彼女から嫌われる心配のまったくなさそうなものがあったのを思い出した(今回も本題に辿り着くのにやたら時間が)。

Frapper連載中の『高杉さん家のお弁当』がそれだ。このマンガなら好きだと口にしても彼女から嫌われないかもしれない(誰か実際に試してみてくれるとうれしい)。

オーバードクターの草食系(?)三十男が孤児になった従姉妹(十二歳)を突然引き取って育て始めることになる話(以下ネタバレ注意です)。

正直なところ最近似たような設定がマンガ界隈では散見されるのも確か。子育て系(?)静かなブームと言ったところだが『高杉さん家のお弁当』は他のものに比べて一味違う(はは、うまいこと言った)。

連載のかなり早い段階から従兄妹同士なら婚姻可能であることが(ちょっと)露骨に明言されているし。さらに追い討ちをかけるようにのちには実際の血縁のないことまで判明する。

高杉くん(ハル)はかなりさえない男として登場するが連載が進むうちにさらに残念な部分も明らかになっていく。同時に職業的には真摯というか真面目な姿勢でなおかつ常に今後の進路(いわば学者としての就職先)の不安を抱えているあたり(おそらく)読者の好感度は高い(かもしれない)。ところで私って地理学と民俗学の区別がうまくつかない。

当初中学一年になったばかりだった久留里もついに高校生になってしまうし、小坂さんや丸宮兄の活躍(?)により子育てものというより大学の研究室を舞台とした恋愛模様といった色彩が強くなってきている。いやむしろ小坂さんにはもっともっとぐるぐるしてほしいのだけど。

そういえば第30話で高杉くん(ハル)への好意をあろうことか久留里相手に告白するという暴挙に出る小坂さんはいつも以上にぐるぐるしているかと言えばそうでもないような気がする。

いまどき家族みんなでウルトラハッピーにスマイルできる漫画というのは珍しい。それに登場するお弁当のレシピは秀逸で弁当生活を送っていない人間でも自炊する上でとってもためになる。ひとつぶで二度も三度もおいしいお得な漫画(もちろん、うまいこと言ったつもり)。

さらに特筆すべきはこの作品にそこはかとなく横溢する名古屋臭である(形容矛盾)。

札幌東京大阪が舞台だったらこのマンガはこれほど幸福なものにならなかったろう。

あの黄昏の街、センチメンタルシティ名古屋。
その名がひとたび口にされると青年の胸を甘美な憧憬で満たす名古屋。
喫茶店でモーニングサービスを頼むとラー油をはじめとするソフトドリンク飲み放題の名古屋。
潜水艦と両親以外にはなんでも味噌をつける名古屋。
日本のへそ和のスタンダード名古屋。
すべての夢が幻を形作る名古屋。
バス初乗り200円の名古屋。
日本に名古屋をありがとう(八百万の神に感謝!)。

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