2012年6月22日金曜日

●金曜日の川柳〔高橋古啓〕 樋口由紀子


樋口由紀子








その傷を待ってたように噴き出す血


高橋古啓 (たかはし・こけい) 1936~2005

そんなにたいした傷と思ってないのに血が噴き出してびっくりすることがある。血は身体の内にあってこそのもので、身体の外に出すものではない。まして、血が待っていたかのように噴き出すとは絶対思ったりしない。

たとえ血であっても迎えようとする。歓迎されない、見たくないものに対する作者の認識である。それと同時にそういうものを裡に持っている自負だろう。自らの想いやこだわり、切実な感情を表現しているのかもしれない。独自の身体感覚である。

本名は「啓子」で逆さにして「古啓」とした。元新劇の女優さんで、真っ赤な口紅が印象的で、素直なのに素直にはなれない人だった。懐かしく思い出して、個性的な川柳人が少なくなったと感慨深くなった。昨日が誕生日。〈此處から落ちたファウストの階段〉〈太陽に黒点 愛人がひとり〉

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