2012年8月31日金曜日

●金曜日の川柳〔堀口塊人〕 樋口由紀子



樋口由紀子







ふるさとのあのポストから来た手紙

堀口塊人 (ほりぐち・かいじん) 1903~1980

一昔前は「あのポスト」と特定することができたなと思った。今はどこに投函したかほとんどわからない。別にどのポストであろうと届くことには変わりはないのだが…。

この手紙は作者にとって特別なものだったのだろう。大事な用件が書いてあったわけではない。忙しさにかまけて連絡をとっていなかった母からの「元気ですか」とただそれだけの手紙のような気がする。用件のない手紙はすべての用件を含んでいる。郷愁を強く感じる。そういえば、近頃は手紙を出すことも受け取ることもめっきり少なくなった。気づかぬうちに変わっていったものが身近にもたくさんある。「あのポスト」と思えた時代が懐かしい。

堀口塊人は日本川柳協会の設立に尽力し、明治・大正・昭和の川柳界の生き字引といわれた。

2012年8月30日木曜日

2012年8月29日水曜日

●スープ

スープ

白昼のごとく燕のスープなり  岡村知昭〔*〕

スープの匙雁ゆく海を曳航せり  八木三日女

寒星や缶のスープの具が四角  松本てふこ〔*〕

摩天楼驟雨に蛇のスープ飲む  仙田洋子

人類もスープもさざなみして昏るる  金子 晉


〔*〕『俳コレ』(2011年12月・邑書林)より


2012年8月28日火曜日

〔俳誌拝読〕ほたる通信Ⅱ(2012年8月)

〔俳誌拝読〕
ほたる通信Ⅱ(2012年8月)

西原天気

ふけとしこ氏による個人誌。かつての「ホタル通信」の「超縮小版」として(官製)ハガキ形式で始まった「ほたる通信Ⅱ」。自作8句、時候の挨拶より成る。

  花蜘蛛の揃へる脚の透きとほる  ふけとしこ




2012年8月27日月曜日

●月曜日の一句〔片山由美子〕 相子智恵



相子智恵







たたむとき翼めくなり秋日傘  片山由美子

句集『香雨』(2012.7 ふらんす堂)より。

日傘を畳むときに、鳥が翼を休めたように感じたのだろう。白い日傘なら白鷺のように、黒日傘なら鵜のように大きな鳥が、翼をすーっと閉じてゆく瞬間のイメージが、私の脳裏には浮かんできた。

逆に日傘を開くときにもまた、バサリと飛び立つ鳥の翼を感じることができただろう。しかし、作者は日傘を〈たたむとき〉を選んだ。

この日傘は、暑さ本番の夏の日傘ではなく、残暑まで差している〈秋日傘〉である。あと半月ほど経って、もう少し涼しくなれば、この日傘も今年の役目を終えるだろう。その〈秋日傘〉の季語の気分は、翼を畳んで休もうとする瞬間の鳥たちの安堵にも似ている。やはり、〈たたむとき〉なのだ。

2012年8月26日日曜日

〔今週号の表紙〕第279号 夜は千の目を持つ 西原天気

今週号の表紙〕第279号
夜は千の目を持つ

西原天気


表題にあまり意味はない。ウィリアム・アイリッシュの小説のタイトル。

東京・月島へと架かる橋の下の隙間のような空間。写真の奥に見えるコンクリートの向こうは隅田川。灯りは、その対岸のビル群。


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2012年8月25日土曜日

●ha と wa 野口裕

ha と wa

野口 裕



うめの花赤いは赤いは赤いはな  惟然

以前からこの句の最後の二音をどう読むのか戸惑っていた。hana なのか、wana なのか?

今日、たまたまネットで検索してみると「花」としているところ、「ハな」としているところと、両様の読みがあるようだ。なかには、「はさ」としているところもあった。

「は」に関する読みでは、宮澤賢治に「イーハトーブ」という造語がある。彼の出身である、「岩手」をエスペラント語風に言ったものだというのが定説になっている。愚生は、「岩手」を「いはて」と書いたから、「イーハトーヴ」を「いーわとーぶ」と読むとしたいのだが、皆、「ハ」を wa でなく、ha とよむ。

井上ひさしに、彼の伝記をもとにした『イーハトーボの劇列車』という戯曲があるが、NHK のアナウンサーも ha と発音していた。今回決定的だったのが、映画『グスコーブドリの伝記』。舞台になっている都市の名が「イーハトーブ」。映画の中で何回も ha と発音されている。どうも wa の旗色は悪そうだ。


補記

よくよく調べると、e船団の「この一句」。
http://sendan.kaisya.co.jp/ikkub09_0401.html
塩見恵介氏の鑑賞文の引用句でした。元の表記は、

 梅の花赤いは赤いあかひわさ

他に小熊座の渡辺誠一郎氏も。
http://www.kogumaza.jp/1202haikujihyuu.html
表記は、「梅の花赤いは赤いはあかひわさ」。若干異なります。

「はの」とする形もあるようです。
http://sogyusha.org/ruidai/01_spring/ume.html
口承、転記を繰り返すうちに色々なバリエーションが生み出されていったのでしょう。古典の写本の異同と同様かとも。

答えが一つしかない、というのはちょっとさみしい気もします。

は行音をいろいろ調べているうちに、ウィキペディアにとんでもないことが書かれているのを見つけました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AF%E8%A1%8C

こうした変遷の一例を挙げるなら、たとえば「あはれ」(あわれ) /afare/ という語は、当初は [aɸare] のように発音されたと考えられるが、促音が一般化すると、感極まったような時に現れる音の“溜め”が促音 /q/ として固定され、さらにその影響で [ɸ] から変化した後続音 [p] が /p/ として独立して、「あっぱれ」 /aqpare/ という新しい語形が定着するに至っている。

「あはれ」から「あっぱれ」が出ているとは!

2012年8月24日金曜日

●金曜日の川柳〔八坂俊生〕 樋口由紀子



樋口由紀子







ブロックの塀にひまわり一個の首

八坂俊生 (やさか・としお) 1937~

夏の暑い盛りにいきおいよく咲いていたひまわりが枯れはじめている。元気なときは首を持ち上げて、ブロック塀をのり出すように堂々と太陽とわたりあっていたが、今はうなだれて、ブロック塀にもたれかかりそうなくらい弱弱しい。

ひまわりというのは不思議な花である。派手で自己主張の強いようでいて、なんとなく寂しげでもある。そして、立ったまま枯れていく。それもなかなか枯れきらずにいつまでも枯れた姿のままでいる。「一個の首」に自らの生について、あるいは生きるということのあらゆる意味がひっくるめてあるように思う。

「川柳は『こと』の詩だと私は思っている。『もの』には形があるが、「こと」には形がない。形のない『こと』に僅か十七音のことばで形をあたえるのが川柳」(『八坂俊生川柳句集』あとがきより)

2012年8月23日木曜日

●ペンギン侍 第54回 かまちよしろう

連載漫画 ペンギン侍 第54回 かまちよしろう

前 回

つづく


かまちよしろう『犬サブレ 赤』 絶賛発売中!



2012年8月22日水曜日

【俳誌拝読】『里』2012年2月号

【俳誌拝読】
『里』2012年2月号

西原天気



え? 2月号?と訝らないでいただきたい。少し前に届いたのだ。そう、冬とか春に届いたんじゃない。と、発行日を確かめると、「2月9日」とある。えぇ~? そんなはずはない! アタマがこんがらがって、TVドラマシリーズ『ミステリーゾーン』(原題 Twilight Zone)を観ているような気になる。ともかく、いろいろな事情があって、現在、月刊同人誌『里』は、30日と置かずに次々と絶賛発行中だそうだ。

発行人:島田牙城、編集人:仲寒蟬。この号はA5判、本文44ページ。小誌「週刊俳句」では、この『里』の連載から2本(小林苑を「空蝉の部屋」、上田信治「成分表」)を転載、また、第278号では、 島田牙城・「「俳句」2012年8月号「緊急座談会」読後緊急報告「輸入品の二十四節気とはずれがある」は間違ひだ!」を転載させていただいている。

巻頭に、九里順子眼が狩る、眼を狩る 齋藤玄論」。齋藤玄(1874~1980)は、いまは読まれる機会が比較的少ない作家かもしれない。当記事は、「眼」等、モチーフという括りで整理され、ひとりの作家をコンパクトに伝える。
  鳥の目と鳥撃ちの眼と氷りゆく (昭四六・『玄』)
狩られる「鳥」と狩る「鳥撃ち」は、「目」と「眼」が呼応して、自然の中で共に氷る。これは、見る者が見られる者の目になり、世界を捉える玄の方法を象徴している。
なお、齋藤玄についてはウェブサイト「詩客」で飯田冬眞氏の連載が継続中(≫こちら)。

同人諸氏の俳句作品は7句ずつ、2段組に並ぶ。

巻末近くの島田牙城御中虫の一句が示すこと」は、『豈』第53号に載った一句、

  月といふのですか、巨きな石ですね。  御中虫

を取り上げ、《「月」の持つ伝統も情趣もすべてを吹き飛ばしてしまひながら、「月」そのものの質感をこちらにぶつけてくる》(原文の旧漢字を新漢字で表記)と好評。

月=大きな石、という把握は、最近どこかで見たと思ったが、句集『娑婆娑婆』(2011年7月/西田書店)だった。

  人は塵月は巨大な石である  佐山哲郎

こう並べてみると、前掲の御中虫さんの句は、口語体・非定型(韻律的には6・7・5の定型感が強い)という外観がユニーク。「~といふのですか」という導入の調子もいい。佐山哲郎さんの句は、「人は塵」というあたりが余計かもしれません。短歌的過剰というか。まあ、このあたりは好みによる。



2012年8月21日火曜日

●「彼方からの手紙」第五号!配信のお知らせ

「彼方からの手紙」第五号!配信のお知らせ

山田露結



ちょっと、おじゃまします。えー、おかげさまで毎回ご好評いただいております俳句通信「彼方からの手紙」第五号の配信がはじまりました。

そう、山田露結と宮本佳世乃がコンビニのマルチコピー機を利用して配信するアレです。

今回のゲストは、田島健一さん! そして、テーマは「海」です。三人三様の「海」に仕上がってます。いや、けっこう充実した内容になってると思うんです(*^^*)

前号から、セブンイレブンだけでなくサークルKサンクスのコピー機からも受け取れることになってます。ぜひ、あなたもお近くのセブンイレブン、またはサークルKサンクスで「彼方からの手紙」を受け取って下さい。


【ネットプリントの受け取り方(セブンイレブン)】

1.セブンイレブンへ行く。

2.マルチコピー機の「ネットプリント」を選択して予約番号を入力する(プリント料金 60円)。

3.手順に従ってプリントを開始する。

予約番号 95505552
プリント料金 60円
配信期間 8月18日(土)~25日(土)23時59分まで
配信場所 全国のセブンイレブン

セブンイレブンネットプリント


【ネットワークプリントの受け取り方(サークルKサンクス)】

1.サークルKサンクスへ行く。

2.マルチコピー機の「ネットワークプリント」を選択してプリント料金 60円を投入。約款を確認し「同意する」ボタンを押す。

3.ユーザー番号を入力後、手順に従ってプリントを開始する。

ユーザー番号 Q786BZYX9G
プリント料金 60円
配信期間 8月18日(土)~26日(日)04時00分まで
配信場所 全国のサークルKサンクス

サークルKサンクスネットワークプリント

2012年8月20日月曜日

●月曜日の一句〔佐々木敏光〕 相子智恵



相子智恵







秋風や屋上にある潦  佐々木敏光

句集『富士・まぼろしの鷹』(2012.7 邑書林)より。

ビルの屋上にある〈潦〉(にはたづみ=水たまり)は寂しい。

コンクリートの屋上のうっすらとした凹みに溜まった雨水は、大地にできた水たまりのように、そこに染み込むことができないからだ。屋上の水たまりは、乾いた風と日光に蒸発してゆくのをただ待つのみである。防水処理が丁寧にほどこされた現代のビルの屋上ならば、なおさらだろう。

〈秋風〉が、そんな水たまりに静かな漣を立てている。乾いた秋風はゆっくりと水たまりをなぶり、乾かしてゆく。

これが、ふわっと優しい「春風」では間が抜けてしまうし、「木枯し」では冷酷すぎる。からりと軽くて薄情な〈秋風〉だから、この乾いた都会的な味わいが出せるのだろう。

何気ない風景の中に、現代の秋の寂しさを感じさせる一句である。

2012年8月19日日曜日

〔今週号の表紙〕第278号 夏の果て 橋本有史

今週号の表紙〕第278号
夏の果て

橋本有史



十数年俳句の世界に浸かってきたが、突然にフォトグラファーになろうと思い7月から写真を習いだした。俳句に飽きたわけではない。俳句で培ってきたこと(省略、客観写生、寄物陳思など)、そして季語、季感、それらを使って写真を撮ってみようかと思ったからである。写俳ではない。俳句と写真を重ね合わせると情報過多で暑苦しい。「俳人写真」(俳人目線で撮る写真)そんなものを目指してみようかと思っている。

この写真は沖縄本島の那覇空港に隣接した瀬長島という島である。滑走路の丁度先にあり飛行機が真上を、大空に向かって昇っていく。この島には野球場があってたくさんの少年野球チームが歓声をあげていた。一方海辺にはほとんど人がいない。沖縄の8月はもはや海のシーズンではないのかもしれない。見渡す限りの海と空、人は一人だけ、南の島の夏の果てを感じた瞬間であった。


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2012年8月18日土曜日

●ベッド

ベッド

涼あらたベッドに岸のあるごとし  山田露結〔*

ベッド組み立てて十一月の雨  皆吉 司

氷柱垂れベツドは生きものの熱さ  矢口 晃〔*

枯野来て泊つる回転ベッドかな  林 雅樹〔*

大阪城ベッドの脚にある春暁  石田波郷

東京やベッドの下に蜘蛛ひからび  横山白虹


〔*『俳コレ』(2011年12月・邑書林)より



2012年8月17日金曜日

●金曜日の川柳〔井上信子〕 樋口由紀子



樋口由紀子







国境を知らぬ草の実こぼれ合ひ

井上信子 (いのうえ・のぶこ) 1869~1958

井上信子は先週紹介した井上剣花坊の妻。掲句は昭和15年に発表された。剣花坊の川柳には人柄と思想が色濃く表われていたが、信子の川柳は女性ならではの視点でアイロニカルなメッセージを乗せている。

信子にも描きたいモチーフははっきりとある。硬骨漢の剣花坊と大きく異なるのはアイデンティティをナショナルなものに頼っていなくて、柔軟でたおやかなところである。人間が決めた国境はしばしば紛争の種になる。しかし、草の実に国境に関係なく、様様なものが結実し、開花する。「こぼれ合ひ」は本当にそうだと思う。

信子は「鶴彬に生活を与えるための会」を提唱し、「川柳文学のために思う存分活動せしめたい」と全国に回状を廻して、寄付金を募り、鶴彬(つる・あきら)を支援した。

2012年8月16日木曜日

●コモエスタ三鬼34 めぐる 西原天気

コモエスタ三鬼 Como estas? Sanki
第34回
めぐる

西原天気


狂院をめぐりて暗き盆踊  三鬼(1947年)

精神科病院はむかし「癲狂院」といった(呼称としては19世紀初めにすでに見られ、明治初年の法制化の際に正式に用いられた語)。いまの「メンタルクリニック」といった言い方とはえらく違い、おどろおどろしい。

盆踊は死にまつわる祭祀だから、「暗き」は念押しのようなものだ(今は町内会が小さな公園に仮設の櫓を設けナントカ音頭を拡声器で流す、といったペラペラした催しがもっぱらだが)。

強度のある語を2つ用い、これでもかのドラマ仕立て。

「めぐりて」がちょっと不思議だ。狂院の中庭での盆踊ならわかるが、「めぐる」というのだ。病舎の廊下を盆踊の列がゆっくりと進んでいくのか。「めぐりて」の一語で、夢魔の様相を呈する。


※承前のリンクは 貼りません。既存記事は記事下のラベル(タグ)「コモエスタ三鬼」 をクリックしてご覧くだ さい。

2012年8月15日水曜日

【俳誌拝読】『面』第114号 西原天気

【俳誌拝読】
『面』(第114号/2012年8月1日)

西原天気


発行人・高橋龍。A5判、本文50ページ。1962年(昭和37年)=西東三鬼の歿年に創刊(休刊1984~2002年)。

本号は巻頭に山本鬼之助句集「マネキン」200句を掲載(50周年記念企画の誌上句集)。

山ざくら屋根師は遠き東より  山本鬼之助(以下同)

しばらくはキャベツの芯を噛みたまへ

夏の夜へ戸板は輿となりゆけり

春燈の影を横切るチェスの馬

若竹を振れば立派に鞭の音

蝙蝠に忍び返しの昏れ残る

大寒の射的の的の駆逐艦

千住葱を嚙めば現に兄じや人


対象や表現形式との程よい距離感から来る「粋」が随所に。


急逝された同人・白石不舎氏の追悼、4ページ。

雪だるま解けてゆくとき何か云ふ  白石不舎(遺作)

白石不舎 「面」作品抄より

どこからかしろいものてふてふととぶ (第100号)


以下、同人諸氏作品より。

竹やぶの裏から素直な未来だ  田口鷹生

手扇ではらふ紫煙や三橋忌  加茂達彌

山となれ
屈める
犀の
吐息一生
  上田玄

鍵穴は寒月光に瞬けり  本多和子

孑孑の未来vs姉の過去  池田澄子

肩車九月の海をみてゐたり  奥名房子

ピン札のおつりの英世風薫る  網野月を

銀漢に素足濡らして来る英霊  福田葉子

七曜は雲なきままに寒卵  小林幹彦

黙礼やすずなすずしろ苦き草  北川美美

湯ざめせぬようこの顔を落とさぬよう  渋川京子

難しき名のコーヒーも長閑なる  森多佳子

煮魚の小骨を舐り春深し  竹内弘子

白雲にぶつかるときの鶴若し  遠山陽子

別嬪が蜷局を捲いて春炬燵  山本鬼之介

蒼天を影と咲きをり花水木  黒川俊郎

夏はいつも特急列車ぎんいろの  阿部知代

春陰に匁を刻む竿秤  高橋龍



2012年8月14日火曜日

●ペンギン侍 第53回 かまちよしろう

連載漫画 ペンギン侍 第53回 かまちよしろう

前 回

つづく


かまちよしろう『犬サブレ 赤』 絶賛発売中!



2012年8月13日月曜日

●月曜日の一句〔対中いずみ〕 相子智恵



相子智恵







盆唄や星の林といふべかり  対中いずみ

句集『巣箱』(2012.7 ふらんす堂)より。

「〈星の林〉というべきだろう」と作者は言う。きっと、林の暗い影の上に、見事なまでの星空が広がっていたのだろう。〈星の林〉と省略して幻想的な世界が広がった。

盆踊りをしているのは、こんもりと茂った林の中の境内だろうか。作者は林の外を通りかかって林の内なる盆踊りの唄を聴いたか、あるいは踊りの輪に加わりながら、林が戴く星々を見上げたのかもしれない。盆踊唄という精霊を慰めるための唄に、星々という遥かなものの取り合わせが美しく、切なく響き合っている。

この句は調べも美しい。〈盆〉〈星〉の「O」の音や、〈唄〉〈いふ〉の「U」、〈星の林といふ〉で連なるハ行の音の数々は、どこか“遠さ”を感じさせる。一句を唱えると、夜空に吸い込まれそうになる。そして読者の耳にも、空耳の〈盆唄〉を聴かせてくれるような気がする。

『巣箱』という句集には、全体的にこうした“遠さ”の美しさがある。むろん、描写する景が遠いというような物理的なことでは決してない。見えているものの奥に余韻として広がる“遥けさ”のことだ。感覚的な物言いで恐縮だが、その“遠さ”はきっと、詩にとって、とても大切なものだと思う。

2012年8月12日日曜日

〔今週号の表紙〕第277号 生口橋 小川春休

今週号の表紙〕第277号
生口橋

小川春休



「しまなみ海道」というのは愛称で、「西瀬戸自動車道」というのが正式名称なのだそうだ。今回調べてみるまで正式名称の方は知らなかった。本州四国連絡道路として、広島県の尾道から、愛媛県の今治へと、数多くの島を10本の橋でつなぐルート。生口橋(いくちばし)はその内の1本で、生口島と因島を結んでいる。

海と空、島と橋、島独特の家並、段々畑、釣り人、造船場…。とにかく眺めが良いんですが、あいにく運転しながらではのんびり眺められず。往路はやきもきしながら通過しました。で復路を家人に運転してもらって、今度こそ景色をしっかり堪能。

この10本の橋、それぞれに形状や工法が違うようで、1本1本表情が異なるのも楽しい。助手席から、ばしばし写真を撮りまくる。こちらは来島海峡大橋。


通行料はお高いが、素晴らしい眺望だけでなく、何を思ってこんなもの作ったのか不安にさせられる耕三寺や、「さんわ」の伯方の塩ラーメンなどなど、広島県民として自信を持っておすすめできる観光地だ。


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2012年8月11日土曜日

【新刊紹介】『山口誓子の一〇〇句を読む 俳句と生涯』

【新刊紹介】
角谷昌子著〕八田木枯〔監修〕『山口誓子の一〇〇句を読む 俳句と生涯』

2012年7月3日/飯塚書店

八田木枯が100句を選び、角谷昌子が解説。八田木枯は十代で長谷川素逝に師事、戦後すぐの時期、三重県四日市の天ヶ須賀海岸で保養中だった山口誓子を訪ね、1948年創刊の『天狼』に投句。本書は、半世紀以上経って弟子が師のアンソロジーを編むという体裁。

ご承知のとおり、八田木枯は今年3月19日に逝去。「あとがき」によれば、本書・校正作業が進むなかの逝去で、本書が(句作以外での)遺作ということになる。

100句にどんな句が入り、どんな句が漏れたかは、読者の大きな興味だろうから、ここには、有名句では《麗しき春の七曜またはじまる》が漏れている、と、その点だけ記して、あとは手に取ってお楽しみいただくことにする。

角谷昌子の解説は、鑑賞と評伝のバランスがよく、撰から漏れた句も同日の句作として紹介するなど、読者への配慮が行き届いている。

大俳人の全業績を俯瞰あるいは賞味するのに、100句は、ちょうど良い数かもしれない。

(西原天気・記)


2012年8月10日金曜日

●金曜日の川柳〔井上剣花坊〕 樋口由紀子



樋口由紀子







かまきりはかなわぬまでもふりあげる

井上剣花坊 (いのうえ・けんかぼう) 1870~1934

「かなわぬまでも」の中七が効いて、一生懸命なかまきりの姿が目に浮かぶ。かまきりは庶民の比喩だろう。庶民の姿であり、庶民の一人として自分もそうありたいと願っている。掲句は大正10年に作られた。反骨、風刺のメッセージ性が強く、一般読者にもよくわかる川柳である。〈ころされてまだかまきりの斧動く〉当時の社会的背景を考えると剣花坊の意図と熱感が伝わる。

井上剣花坊は川柳中興の祖。「柳多留の昔へ還れ」「狂句百年の負債を返せ」と説き、川柳は「階級のキモノを着ない人間の詩」でなければならないとした。新聞「日本」に「新題柳樽」として川柳を掲載し、「新題柳樽」はやがて新川柳のメッカとなる。〈咳一つ聞こえぬ中を天皇旗〉〈米の値を知らぬやからの桜狩〉。

2012年8月9日木曜日

●長崎

長崎

長崎は港に音す花樗  森 澄雄

磔像をせせりゐし蝶天に消ゆ  上村占魚

長崎に友ありレース光満つ  大島民郎

うすものを着て長崎の唄うたふ  久保田万太郎

長崎に雪めづらしやクリスマス  富安風生


2012年8月8日水曜日

●ビニール

ビニール

入歯ビニールに包まれ俺の鞄の中  関悦史

ビニールの水も金魚もやわらかし  神野紗希

ビニールの姐様かむり牡丹の芽  阿波野青畝

ビニル傘ビニル失せたり春の浜  榮猿丸

2012年8月7日火曜日

2012年8月6日月曜日

●月曜日の一句〔春日愚良子〕 相子智恵


相子智恵









隣まで裸の腕を垂らしゆく  春日愚良子

句集『春日愚良子句集』(2012.7 鬼灯書籍)より。

酷暑の日々が続いていて、掲句に目が留まった。

〈裸の腕〉ということは、きっと「肌脱ぎ」の状態なのだろう。上半身裸で隣家まで行ける情景からは、この場所が、隣に誰が住んでいるのかわからないような都会ではなく、地縁・血縁の深い土地柄であることが伝わってくる。隣家までの距離も近く、車通りもほとんどないのだろう。隣家に住んでいるのは気を遣わない親戚筋か、毎日会う幼なじみのような近しい関係か。

〈腕を垂らしゆく〉の描写に、暑さに参った人物の内面までもが見えてくるようだ。腕を垂らして、少し猫背気味に、強く照りつける太陽を背中に受けて歩いていくのだろう。その一瞬の孤独感の強さ。しかしその後の隣家との「暑いねえ」の挨拶に始まる交流を想像して、少しほっとするのである。

2012年8月5日日曜日

〔今週号の表紙〕第276号 休日 矢野玲奈

今週号の表紙〕第276号
休日

矢野玲奈


休日の朝はゆっくり起きる。
そろそろ原稿にとりかからないと締め切りに間に合わないなと思いながらテレビをつける。
コーヒーを淹れていると、「今日は一日良いお天気です」と明るい声が流れてきた。

海へ行かなきゃ。

自他共に認める方向音痴だけれど、海への道は大丈夫。初めての場所でもちゃんと到着。いつものように身支度に時間がかかり、海に着いたのは午後一時くらい。
なにも一日のうちでこんな暑い時間帯に。。と思うのだけれど。

日頃、収益性の高い商品は? このシステム開発の費用対効果は? 事務の効率化! などと考えているわりに、自分のことになると違う。

思いつきの行動。

ビーチを端まで歩いて、戻ってきて。新品のサンダルで足が痛くなったので腰をおろして、休憩。
ビーチサッカーのシュートに感心したり、裸で走る子供を眺めたり。
心ゆくまで、海風に吹かれたので帰る。

ただ海に居ただけ。

そろそろ原稿にとりかからないといけないなと思いながら、コーヒーを淹れている。


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2012年8月4日土曜日

●週俳の記事募集

週俳の記事募集

小誌「週刊俳句がみなさまの執筆・投稿によって成り立っているのは周知の事実ですが、あらためてお願いいたします。

長短ご随意、硬軟ご随意。お問い合わせ・寄稿はこちらまで。


【記事例】

『俳コレ』の一句 〔新〕

掲載記事 ≫こちら

これまで「新撰21の一句」「超新撰21の一句」を掲載してまいりました。『俳コレ』も同様記事を掲載。一句をまず挙げていただきますが、話題はそこから100句作品全般に及んでも結構です。



俳誌を読む ≫過去記事

俳句総合誌、結社誌から小さな同人誌まで。号の内容を網羅的に紹介していただく必要はありません。

句集を読む ≫過去記事

最新刊はもちろん、ある程度時間の経った句集も。

時評的な話題

イベントのレポート

これはガッツリ書くのはなかなか大変です。それでもいいのですが、寸感程度でも、読者には嬉しく有益です。

同人誌・結社誌からの転載

刊行後2~3か月を経て以降の転載を原則としています。


そのほか、どんな企画でも、ご連絡いただければ幸いです。

2012年8月3日金曜日

●金曜日の川柳〔西尾栞〕 樋口由紀子


樋口由紀子









応接間の金魚逆立ちしてみせる

西尾栞 (にしお・しおり) 1909~1995

「応接間」に時代を感じる。一昔前はちょっとした家には応接間があった。もちろん、今だってある。しかし、ニュアンス的になんとなく違う。かっての「応接間」はステータスシンボルのような、そんな雰囲気があった。応接間で待たしている主と待たされている客の関係性なども想像できる。

この応接間には鳥や獣の剥製や絵画が飾ってあるのだろう。客が待たされるのは毎度のことなので、金魚も心得ている。それで逆立ちの芸を披露した。「いやー、待たせたな」と主がお出ましになるまで、たぶんもう少し時間はかかるだろう。

西尾栞は麻生路郎没後の「川柳塔」主幹。


2012年8月2日木曜日

●ペンギン侍 第52回 かまちよしろう

連載漫画 ペンギン侍 第52回 かまちよしろう

前 回

つづく


かまちよしろう『犬サブレ 赤』 絶賛発売中!



2012年8月1日水曜日

●ロンドン

ロンドン

ロンドンに着きは着きたれ夜半の夏  久保田万太郎

ローリング・ストーンズなる生身魂  榮猿丸

「しばれる」と訳す倫敦塔真裏  櫂未知子

霧黄なる市に動くや影法師  夏目漱石