2013年7月14日日曜日

〔今週号の表紙〕 第325号 神保町の路地

今週号の表紙〕 
第325号 神保町の路地

有川澄宏


1970年頃の神田神保町の路地です。

表通りは世界一と言われる、古書店街です。私もずいぶん世話になりました。さらにこの路地の一角にあった謄写版印刷屋(通称ガリ版屋)で、一年ほどアルバイトをしていたので、何年か後に、懐かしさのあまり訪ねた時の一枚です。

質屋、一杯飲み屋、それに中卒の子二、三人を抱えた零細な製本屋などが、ひっそりとならんでいました。いま、Googleマップでたどってみると、ビルや駐車場などに一変していて、当時の面影はありません。ただ、路地の広さは同じです。

そうそう、もう一軒、小さな鮨屋がありました。志賀直哉の「小僧の神様」の舞台を思わせる佇まいで、アルバイトで学業をなんとか続けていた身には、作中の仙吉と似たような境遇で、私は店の前を素通りするばかりでした(涙)。

もうひとつ。この路地の近くのさくら通りに、「東洋キネマ」という多くの人に親しまれた映画館がありました。

1922年(大正10年)1月、開業初日の弁士は、德川夢声だったそうです。関東大震災で焼けた後、1928年(昭和3年)に再建後は、数々の名画がファンをとりこにしたようで、私も学校とバイトをさぼって、ときどき覗きにいきましたが、映画の題名がいま思い出せません。サボるのが目的だったせいかも知れません。

70年代の初めに閉館、その後、1992年に解体とありますから、この路地の写真を撮りに行った頃は、まだ健在だったはずで、歴史的な建物の写真を撮りそこなったうかつ者です。(ネットにたくさん写真が出ていますから、ぜひごらんください)

この映画館は、多くの文学者の小説や日記にも、登場しているようです。


ありかわ・すみひろ
1933年、台北市生まれ。「古志」「円座」所属。「青稲」同人。web連歌参加。



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