2013年7月3日水曜日

●水曜日の一句〔榎本享〕関悦史



関悦史








ふらここの傾きたるも切れたるも   榎本 享

長く放置されて半壊れとなったブランコ。

十数年くらい前までは筆者の住む辺りでもたまに見られた光景だが、最近見なくなってしまった。管理者不在となった土地はすぐ更地にされてしまうようになったからである。

さてこのブランコ、鎖が切れたり傾いたりして、物体が怨みをのんでしずもっているようでもあり、それなりの安定のなかで自足しているようでもある。 

「傾きたるも切れたるも」と対句で拍子を取るような、軽い弾んだ口調の表現はこの作者の持ち味なのだろう。

おかげで廃墟趣味的な物件を描きながらも、心情投影や、自己愛の延長じみた自然・静謐への偏愛とは無関係な句となった。


句集『おはやう』(2012.10 角川書店)所収。

0 件のコメント: