2013年8月23日金曜日

●金曜日の川柳〔須田尚美〕樋口由紀子



樋口由紀子






赤紙が来るかも知れぬお味噌汁

須田尚美 (すだ・なおみ) 1930~2011

家族で食卓を囲み、いつものように味噌汁を啜っているときに、ふと戦時中の記憶が蘇ったのだろう。今の平穏な暮らしがずっと続くのかと不安になった。味噌汁に象徴されるような、ごくありふれたささやかな日常が突然奪われた時代があった。赤紙が来たのだ。

召集令状で名指しされた人は否が応でも戦争に行かねばならない。拒否することなんて到底できなかった。平穏な食卓が大黒柱の働き盛りを連れ去り、残されたものの生活も容赦なく壊した。

掲句は昭和54年、作者49歳の作であるが、今にも充分通じる。いや、現在の方が心配になる兆しがあり、じわじわと赤紙が届く日が迫ってきているような気さえする。いつの間にかそんな世の中になってしまっていたなんてことがないようにしたい。誰一人戦争に駆り出されることなく、みんなで味噌汁を啜る平凡な日が続いてほしい。『螢火』(川柳新聞社刊・1991年)所収。

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