2014年4月26日土曜日

【裏・真説温泉あんま芸者】 悪漢俳句・補遺 西原天気

【裏・真説温泉あんま芸者】
悪漢俳句・補遺

西原天気



悪漢俳句:断章 週刊俳句・第365号

悪漢俳句の例を挙げていけばキリがないのだけれど、ひとつ、書く前には覚えていたのに、書くとき忘れてしまっていた句があった。

春炬燵金で転んだ弁護士と  斉田仁

斉田仁句集『異熟』(2013年2月/西田書店)から、この句は漏れていて、

人権派弁護士として春炬燵  同

が入集。『異熟』にはこちらが採られた。弁護士モノで2句も要らぬ(同じ春炬燵だし)という判断だろうが、並べても面白かったと思う。

「金で転んだ弁護士」と「人権派弁護士」と、このふたつはもちろん世間では別物のイメージだろうが、俳人(斉田仁)の目、俳人の口吻のなかでは同一人物のふたつの顔に思えてくる。「人権派弁護士」を額面のまま受け取るわけには行かない。

俳句のなかの語は、しばしば反語的なはたらきをする。

同時に、シニカルな眼差しが常に用意されているのが俳句、オトナの俳句、さらにいえば悪漢俳句・ワルな俳句、ということになろうか。

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例えば、ウラハイ過去記事「原発」に並んだ句群(コンピレーション)にも、シニシズムが色濃い。コンパイルした者(私なのだが)の性分もあるが、「原発」という事象に対する俳句的スタンスの、けっしてマイナーではない向き合い方だ。311以前の「原発」句にも、その傾向は見て取れる。

原発関連の句は、とくに311以降、多く詠まれたと思しいが、管見の範囲で、最もワルな原発句を挙げるとすれば、

げんぱつ は おとな の あそび ぜんゑい も  高山れおな〔*〕

加えて、長谷川裕氏が発表するでも投句するでも書き留めるでもなく、戯言のように口にしたこの句も、ワルな原発句を代表するものだろう。

東電の電気で廻る扇風機  長谷川裕



というわけで、シニシズムは、悪漢俳句のきわめて重要な成分なのですね。



〔*〕高山れおな句集『俳諧曽我』(2012年10月/書肆絵と本)


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