2014年8月4日月曜日

●月曜日の一句〔高勢祥子〕相子智恵



相子智恵







蟬時雨覚めて淋しき膝頭  高勢祥子

『昨日触れたる』(2013.9 文學の森)より。

昼寝から覚めた直後だろうか。目覚めた耳に窓の外からの蟬時雨が大音量で鳴り響き、遠近感が崩れたように、ふと目をやった自分の身体の一部であるはずの二つの膝頭が遠のいて、淋しく感じられる。全体に「S」の音が響いていて、それがまさに「蟬時雨」が句の空間全体に鳴り響いているような感覚を生んでいる。音と映像、身体感覚が一体となって狂っていくような不思議な句だ。

〈啓蟄や着替ふるときの腕長し〉〈鯉幟なまなましきは人の脚〉〈爽涼や机の裏に腿触るる〉〈あたたかい手かも秋海棠を指す〉など、この作者には身体を客観的に捉えつつも、取り合わせの季語と相まって不思議な世界に引き入れる魅力的な句が多い。

〈くちなはや昨日触れたる所へと〉〈性愛や束にして紫蘇ざわざわす〉など、フィジカルな触れ合いも詠まれる。自分そのものである身体が自覚的に描かれることで、自分から遠く切り離されたようにも思え、それでいて生々しくもある、不思議な重層性が生まれている。

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