2014年12月8日月曜日

●月曜日の一句〔宇多喜代子〕相子智恵



相子智恵







生前の冬に紛るる死後の冬  宇多喜代子

宇多喜代子俳句集成』に収められた最新句集となる第七句集『円心』より。

この句が詠まれた2012年の冬はもちろん、2014年であるこの冬も、生きている限りは〈生前の冬〉である。そこに〈死後の冬〉が紛れるとはどういうことだろうか。自分自身が今を生きている中で、未来である死後の自分が紛れているように感じているのだろうか。または自分と限定せず、私たちを含めた生者が過ごす〈生前の冬〉の中に、多くの死者の〈死後の冬〉が紛れているのだと読むこともできる。

生前と死後の自分を描いたとすれば未来までの「時間」を詠んだことになり、現在における生者と死者を描いたのなら、目に見える生者の世界にとどまらない、死者の世界とのパラレルワールド的な「空間」を詠んだことになる。そのどちらにせよ、生と死は時間的にも空間的にも触れ合うところにある近しいものとして、ここでは描かれている。

句集『円心』には震災の影響を受けた、死のにおいを感じさせる句が多い。一方で〈夏夕焼授乳の母を円心に〉〈秋風や人類の史は赤子の史〉といった、生のはじまりに目を向けた句も目立つ。生と死という、人間の根源を見つめた句集であると思った。

掲句は生の中に死を見る、ひたひたと淋しい冬の句ではあるが、同時に生前と死後が近しく描かれていることによる、一種の心強さのようなものも、私は感じるのである。

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