2015年3月16日月曜日

●月曜日の一句〔柴田佐知子〕相子智恵



相子智恵






伸ぶるだけ首を伸ばして鳥帰る  柴田佐知子

『ガニメデ』62号 「雪女」五〇句詠(2014.12 銅林社)より

秋から冬にかけて渡ってきて日本で越冬した鳥たちが、春に北方へと帰ってゆく。長い空の旅の始まりである。

白鳥のような首の長い鳥の群れなのだろう。〈伸ぶるだけ首を伸ばして〉は実景なのだが、鳥の必死さや、早く帰りたいという思いまでもが伝わってくるようで妙に切ない。ぐっと首を前に伸ばして、鳥たちは故郷へ、故郷へと空を急ぐのである。

眞鍋呉夫に「月の前肢をそろへて雁わたる」という句がある(句集『月魄』)。単純化された日本画的な美しさがありつつ〈肢をそろへて〉の律儀さが不思議と哀しい句だ。掲句も同様に、鳥の姿の描写が、ただひたすら生きることの哀しみへとつながっている。

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