2016年9月19日月曜日

●月曜日の一句〔四ッ谷龍〕相子智恵



相子智恵






オルゴール鏡に苦き光(かげ)こもる  四ッ谷 龍

『夢想の大地におがたまの花が降る』(2016.09 書肆山田)より

内側が鏡張りのオルゴールを閉じたところを想像したが、開いたところのようにも感じられてくる。光と闇が混在し、自分の感覚が一瞬分からなくなる。眩しすぎて目の前が暗くなるような、美しく不思議な世界だ。

光に「かげ」とルビが振られている。そのように読む例があるのかどうか、私は不勉強で知らないのだが、そういえば古語では「影」と書いて光のことも指したから、その逆もあるだろうと思われた。

〈苦き光(かげ)〉も不思議な措辞である。音から導かれた言葉ではないかと思う。この句を読んだとき、まず音が印象的だったからである。

「ORUGOORU KAGAMINI/NIGAKIKAGE KOMORU」と音読をローマ字で表してみると、回文ではないが、前半の音と後半の音が何となく似ている(便宜的に/で区切ってみた)。こうしてみると「ORU」、「KAGE」と「KAGA」、「NI」などの部分が鏡像のように配置されている。ちょうど鏡張りのオルゴールの蓋と箱をパタンと閉じて内部が映し出された時のようだ。

視覚的には光と影が入れ替わり可能なものとして描かれ、聴覚的には鏡像のように音が配置された精緻なこの句は、視覚的にも美しい箱であり、そこに計算された音が閉じ込められているオルゴールそのもののようだ。

「オルゴール」「鏡」「光」から来る祝祭的な気分と「苦き」「かげ」「こもる」から来る憂鬱さ。その対照的な気分も、豪奢なオルゴールを見て聴く時の、明るく、けれどもどこか退廃的な気分に似ている。

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