2016年11月4日金曜日

●金曜日の川柳〔多田誠子〕樋口由紀子



樋口由紀子






レモン輪切りぐらいで満ちてくる神秘

多田誠子 (ただ・せいこ)

川柳は題が決められ競吟する文芸でもある。掲句は兼題「神秘」の入選句。「神秘」は「神」プラス「秘」。なんとも仰々しい言葉である。しかし、その「神秘」が「レモン輪切りぐらい」で「満ちてくる」ものだと作者は気づいた。日常とかけ離れていると思っていた「神秘」が身近なところにもあった。

夜空の星を見ていたら、神秘とはこういうものかもしれないと思うことはあっても、レモンを切ったくらいで神秘は感じなかった。確かにレモンを切るとつんとして、酸っぱいにおいが漂ってくる。今までそこにあった空気とは違う。「神秘」とは思わなかったが、言われてみれば「神秘」というものはそのようなものかもしれないと思った。「川柳たまの」(第57回玉野市民川柳大会 2006年刊)収録。

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