2017年1月9日月曜日

●月曜日の一句〔和田耕三郎〕相子智恵



相子智恵






ひしひしと星哭く夜の寒の山  和田耕三郎

句集『椿、椿』(2016.9 ふらんす堂)より

〈ひしひしと〉に軋むような音を感じ、ぎっしりと星が埋め尽くしているようにも感じられてくる。大声をあげてなくという意味の〈哭く〉の字が選ばれていることもあり、一つの星ではなく、多くの星たちが泣き叫ぶ様子が想像された。すなわち、都会の星ではなく、空を埋め尽くすほどの星が見える土地を想像することができるのである。

冬の山ではなく〈寒の山〉であるところに、一層の寒さと峻険な山が想像されてきて、たとえば北アルプスのようなゴツゴツとした山々も思ったりする。

それでいて、この句は静寂に包まれている。星がひしめき哭いても無音であり、寒の山も何物も寄せつけない厳しい静けさがある。

空も地(山)もこれ以上ない緊張感と密度で軋んでいるような張り詰めた真冬の夜の静けさ。〈ひしひしと星〉のHとSの音の騒がしさが〈哭く夜の〉のNとY音で吸収され〈寒の山〉のK音がそれを寄せつけずに、最後はYとM音で静まる。これらの響きの強弱からも、星と山とその間にある空間が見えてくるようだ。

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