2017年5月19日金曜日

●金曜日の川柳〔墨作二郎〕樋口由紀子



樋口由紀子






鶴を折るひとりひとりを処刑する

墨作二郎(すみ・さくじろう)1926~2016

〈鶴を折る/ひとりひとりを処刑する〉〈鶴を折るひとり/ひとりを処刑する〉、どこで切るかによって解釈が違ってくる。私は前者を採用する。

あたりまえだが、折り紙は手が創り出すものである。鶴を折るのは千羽鶴に代表されるように、病気回復や成就祈願のことが多い。願いや祈りをこめて、角々を合わせて、きちんと折る。山折り谷折りが効いているほど鶴は見事なかたちに仕上がる。「ひとりひとりを」に指先に力をいれて、丁寧の折る動作を感じる。その手の力の入れ方に災いを処刑し、しいては災いの元凶となった人たちのひとりひとりへ怒りがこめられているような気がする。

墨作二郎が昨年末に亡くなった。墨作二郎の存在は大きく、彼が居てくれたから、彼が立っていたから、書くことができた川柳がたくさん生まれた。川柳を牽引してくれていた人たちが次々と居なくなる。〈飴玉が転ぶとすれば環濠都市〉〈星やがて見事な蛇の皮となる〉〈指人形吊るす月下の靴の紐〉〈ばざあるの らくがきの汽車北を指す〉〈蝉は樹を離れて海を見に行った〉。

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