2017年7月10日月曜日

●月曜日の一句〔山口昭男〕相子智恵



相子智恵






見えてゐる水鉄砲の中の水  山口昭男

句集『木簡』(青磁社 2017.05)

透明なプラスチックでできた水鉄砲の中に、水が見えている。ただそれだけの景なのに、なんだか泣きそうになるくらい懐かしさがこみ上げてくる句だ。

懐かしいのは、〈見えてゐる〉という淡々とした描写によって、水遊びに夢中になっている子どもの視点ではなくて、そんな頃を通り過ぎてきた大人の視点を感じるからだろう。
また、水鉄砲の中の水を「見ている」のではなく〈見えてゐる〉と、見る側の意志を感じさせないために、水鉄砲の中の水をぼーっと眺めているうちに、ふと白昼夢に誘われるように郷愁が湧き出てくるのである。「水鉄砲の中の水が見えている」という語順ではなく、いきなり〈見えてゐる〉という書き出しであることも、白昼夢への入口になっているように思う。

白昼夢の一景として

  水遊びする子に手紙来ることなく  波多野爽波

  水遊びする子に先生から手紙  田中裕明

から続く、師系三代に渡る夏の日の水遊びの、柔らかな懐かしさと寂しさを、ふと思ったりもする。

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