2017年8月14日月曜日

●月曜日の一句〔宮本佳世乃〕相子智恵



相子智恵






蚊が脚をつかひ隣にをりにけり  宮本佳世乃

「あこがれ」(同人誌「オルガン」10号 2017.summer)より

ふと、童話のように泣けてきそうになる句だ。

蚊はそういえば脚が長くて、飛んでいる時も歩いている時も脚が目立つ。〈脚をつかひ〉だから、歩いているのだろうか。〈隣にをりにけり〉だから、蚊を隣で見ている人は刺されていないのかもしれない。

刺したり、刺されまいとして手で叩いて潰したり……と対決する対象として、あるいは鬱陶しさや嫌なものとして蚊を従来通りに認識するのではなく、そのような概念を外して、〈隣にをりにけり〉という静かな、ただ文字通り隣にいる状態を描いている。人間と蚊が並列に描かれることで、動物と人間が同じ言葉でしゃべることも当たり前な、童話の世界のような雰囲気が私には感じられた。

見たままを描いているという意味では写生である。ただ写生というと、今までは対象そのものの姿を(例えばこの句でいえば蚊のみ)を見えるように描くことで、直接読者の脳裏にその対象が見えてくるというような手法だったように思う。

がここ数年、対象と見る者の間を描こうとする姿勢が、特に若手の俳句の中に定着してきたような気がする。物そのものではなく、目と物の“間”にあるもの(あるいはないもの)を捉えなおすことで、視界(と認識)が洗われてハッとするような。写生の新たなステージのような気もする。不勉強なので、それは昔から俳人が考えてきたことなのかもしれないのだが。

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