2017年9月11日月曜日

●月曜日の一句〔堀下翔〕相子智恵



相子智恵






田一枚夏といふ夏過ぎにけり  堀下 翔

アンソロジー『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』佐藤文香編(左右社 2017.09)所収

田圃の色は収穫期の黄金色までにはまだ遠いものの、夏の青田とは確実に違う色を見せていて、そこに夏がすべて過ぎ去ったのだという感慨を見出している。田を一枚見ながら、夏という夏が過ぎ去った……と思うのは鋭敏な感性だと思う。

もちろんこれは芭蕉の〈田一枚植て立ち去る柳かな〉を踏まえた知的な句でもある。芭蕉の句には、遊行柳の木陰で西行をしのんで感慨にふけっていたところ、その間に早乙女たちが一枚の田を植え終わって立ち去った…という「時間」が描かれている。

芭蕉がしのんだ西行の歌は〈道の辺に清水流るる柳陰 しばしとてこそ立ちどまりつれ〉で、ほんの少し休むつもりが長居をしてしまったという時間が描かれていて、芭蕉はそこを重ねてみせた。

作者はこの西行、芭蕉と続く「時間」の感覚を、「夏といふ夏過ぎにけり」とさらに大づかみに描いてみせている。少し休んでいるつもりが、一瞬のうちに夏という夏は過ぎ去ったのだ。美しく不思議な感慨である。



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